グローブをはめた手で持たれた赤と黒のフルフェイスヘルメット。奥に停めたバイクがぼやけて見える

海外の通販サイトを開くと、国内で見ているのと同じブランドの、同じモデル名のヘルメットが、はっきり安い値段で並んでいます。写真も同じに見えます。

その値段の差が何なのかを、この記事で確かめます。 結論から言うと、差の一部は本当にただの値段差です。そして残りは、あなたが受け取らないもので出来ています。

目次(タップで開閉)
  1. 1. 同じ「RPHA 12」が、アメリカではDOT、欧州ではECE 22.06
  2. 2. 「並行輸入」「逆輸入」「個人輸入」は、別のもの
  3. 3. 5ブランド、4つのパターン
  4. 4. 名前ではなく、ラベルを見る
  5. 5. 「アジアンフィット」は、頭の話ではありません
  6. 6. 買ったあと、何が無くなるのか
  7. 7. 売れないことと、使えないことは別です
  8. 8. 差額には、何が入っていないのか
  9. 9. それでも買うなら、確認すること

1同じ「RPHA 12」が、アメリカではDOT、欧州ではECE 22.06

HJCの公式サイトを、アメリカ版とヨーロッパ版で並べて開いてみてください。どちらにも「RPHA 12」があります。同じブランド、同じ名前、同じ見た目です。

ただし、書かれている認証が違います。 米国サイトのRPHA 12は、DOT基準を満たすと書かれています。欧州市場で売られているRPHA 12は、ECE 22.06です。

そしてもう一つ。米国サイトには「RPHA 12N」という別の製品があります。 こちらはDOT FMVSS 218とECE 22.06の両方。RPHA 12とRPHA 12Nの違いは、名前の末尾の「N」一文字です。

「RPHA 12を買った」という一文だけでは、どのヘルメットを買ったのかが決まりません。

これは特殊な例ではありません。むしろ、業界のごく普通のやり方です。 ここから、それを確かめていきます。

2「並行輸入」「逆輸入」「個人輸入」は、別のもの

先に言葉を整理しておきます。同じものを指しているようで、指していません。

呼び方どういうものか輸入したのは誰か
正規輸入品メーカーが認めた国内の輸入代理店が、日本市場向けに入れたもの正規代理店
並行輸入品正規代理店を通さず、別のルートで国内に入ってきたもの。国内の店やネットモールで売られていることもあるその業者
個人輸入自分で海外の店から直接取り寄せたものあなた
逆輸入日本メーカーが海外市場向けに出した製品を、海外から日本へ買い戻したもの業者またはあなた

この記事が扱うのは、下の3つです。共通しているのは、メーカーの国内窓口を通っていないこと。 そして、その個体が日本市場向けに作られたとは限らないことです。

「逆輸入」については、一つ補足しておきます。 ブランドが日本のものだから日本仕様だろう、というのは成り立ちません。日本のメーカーも、市場ごとに作り分けています。ブランドの国籍と、その個体の仕向け先は、別の話です。

35ブランド、4つのパターン

では、どの市場向けかは名前で分かるのか。5つのブランドを並べると、名前の付け方が4通りに分かれます。

ブランドやり方
アライ市場ごとに名前が違うアストロGX(日本)/Quantic(欧州)/Contour-X(北米)
RX-7X(日本)/RX-7V(欧州)/Corsair-X(北米)
ショウエイ名前は同じ、認証が違うGT-Air 3 — 日本仕様はJIS、米国仕様はDOT、欧州仕様はECE 22.06
LS2地域ごとに名前が違うVector II(欧州ほか)/Citation II(米国)
AGV名前は同じ、米国向けだけ名前に認証が付くK6 S — 米国の公式ストアでの表記は「K6 S DOT(E2206)」
HJC名前は同じ、認証が違う。さらに一文字だけ違う別製品があるRPHA 12(米国はDOT/欧州はECE 22.06)と、RPHA 12N
名前の付け方は、メーカーごとにばらばらです パターン1 市場ごとに名前が違う 例:アライ アストロGX 日本 Quantic 欧州 Contour-X 北米 パターン2 名前は同じ、認証が違う 例:ショウエイ、HJC GT-Air 3 日本=JIS GT-Air 3 欧州=ECE 22.06 GT-Air 3 米国=DOT パターン3 米国向けだけ、名前に 認証が付く 例:AGV K6 S 欧州 K6 S DOT(E2206) 米国の公式表記。 パターン4 一文字だけ違う別製品 例:HJC RPHA 12 米国=DOT RPHA 12N 米国=DOT+ECE 違いは末尾の 「N」一文字。
4通りのやり方が、同じ業界のなかに同時に存在しています。どれか一つを覚えても、次のブランドでは通用しません。

ここで見てほしいのは、どのブランドが良いかではありません。 4通りのやり方が、同じ業界のなかに同時にあるということです。しかも同じメーカーのなかでも一定ではありません。

名前が違えば別のヘルメットだ、とは言えません。名前が同じなら同じ製品だ、とも言えません。名前は、そもそもその質問に答えるために付けられていないからです。

4名前ではなく、ラベルを見る

では何を見るのか。その個体に貼られている認証ラベルです。

これは名前と違って、ばらつきません。ラベルは、その個体がどの市場の基準に通したものかを示すために貼られているからです。

ラベルどの市場向けに作られた個体か
PSC・SG日本市場向け
ECE(22.06 など)欧州市場向け
DOT・SNELL北米市場向け

海外通販の商品ページで確認できるのは、ここです。 モデル名ではなく、そのページが何の認証を書いているか。書いていなければ、それも一つの情報です。

各マークが何を保証していて、何を保証していないのか——誰が試験したのか、回転(斜め衝撃)は試験されているのか——は、この記事では扱いません。ヘルメットの安全規格を全部並べて比べた記事で、7つの規格を一つずつ分解しています。ラベルの読み方そのものも、そちらにまとめてあります。

5「アジアンフィット」は、頭の話ではありません

海外通販のページでよく見る言葉です。そして、たぶんいちばん誤解されている言葉でもあります。

メーカーが市場ごとに内装の形を作り分けているのは事実です。アライは自社のFAQで、海外向け製品と日本国内向け製品とではヘルメット本体の内装形状が全く異なると述べています。「多少違う」ではありません。

ですが、それは製品の区分であって、あなたの頭の診断ではありません。

日本人の頭が全員同じ形をしているわけではないのは、全員が同じサイズではないのと同じです。丸い人もいれば、前後に長い人もいる。「アジア人だから丸いはずだ」も、「日本人向けだから合うはずだ」も、あなた個人については何も保証しません。

必要なのは「アジアンフィット」でも「欧米仕様」でもなく、あなたの頭に合うヘルメットです。それがたまたまメーカーの言う「アジアンフィット」であることもあれば、そうでないこともあります。測って、被って、確かめる。それ以外にありません。

そして、ここが海外通販といちばん噛み合わない部分です。被れないからです。

6買ったあと、何が無くなるのか

ここは推測ではありません。メーカーが、自分のサイトに書いています。

LS2の米国サイトは、全ページの下部にこう掲げています。海外で購入されたヘルメットと、正規販売店以外で購入されたヘルメットは保証の対象外であり、正規の倉庫を経由していないため、これらの製品についての問い合わせには対応しない、と。

アライのアメリカ法人も、同じ方向のことを公式に書いています。米国・カナダ市場向けに設計・製造・販売されたヘルメットの部品しか在庫していないため、それ以外の市場のヘルメットの部品は供給できない。さらに、米国DOTの要件に合わせて設計も認証もされていないヘルメットには、有償・保証を問わず一切のサービスを提供できない、と。

別の会社が、別の大陸で、それぞれ独立に、同じことを書いています。 一社の方針ではなく、この業界のやり方だということです。

日本国内でも同じ構図になります。並行輸入品や個人輸入品について、国内の窓口が点検・補修・保証をどこまで引き受けるかは、メーカーや代理店によって違います。 引き受けない場合、次のものが手に入りません。

  • 内装やシールドなどの補修部品
  • 転倒後の点検
  • 保証(初期不良を含む)
  • 販売店のフィッティング(そもそも国内で買っていないため)

買う前に、国内の窓口に確認してください。 「この個体は海外市場向けですが、点検と部品供給を受けられますか」。答えは、買ったあとに聞くより前に聞いたほうが、はるかに安く済みます。

7売れないことと、使えないことは別です

「並行輸入 危険」で検索すると、違法なのではないかという疑問に行き当たります。ここは、法律が誰に何を求めているかを、そのまま見たほうが早いです。

消費生活用製品安全法が禁じているのは、販売と陳列です。 経済産業省の説明によれば、特定製品——乗車用ヘルメットはこれに含まれます——について、製造・輸入・販売の事業を行う者は、PSCマークが付いたものでなければ販売したり、販売の目的で陳列したりできません。義務を負っているのは事業者で、禁じられている行為は「売ること」と「売るために並べること」です。

輸入そのものには、特別な規制はありません。 対日貿易投資交流促進協会(ミプロ)は、ヘルメットの輸入に特別な規制はないと明記しています(一部の化学物質を使った製品を除く)。規制がかかるのは、販売の段階です。

そして、道路交通法があなたに求めているのは、マークではありません。 道路交通法第71条の4は乗車用ヘルメットの着用を義務づけ、その基準は道路交通法施行規則第9条の5に7項目が並んでいます。視野、ひさし、聴力、衝撃吸収性と耐貫通性、あごひも、重量、構造。この7項目に、PSC・SG・JISというマークの名前は一つも出てきません。

詳しく:道路交通法施行規則第9条の5が求める7項目(読み飛ばし可)
  1. 左右、上下の視野が十分とれること
  2. 風圧によりひさしが垂れて視野を妨げることのない構造であること
  3. 著しく聴力を損ねない構造であること
  4. 衝撃吸収性があり、かつ、帽体が耐貫通性を有すること
  5. 衝撃により容易に脱げないように固定できるあごひもを有すること
  6. 重量が2キログラム以下であること
  7. 人体を傷つけるおそれがある構造でないこと

マークの名前が出てこない代わりに、求められているのは機能です。なお、実際の判断は個別の状況によります。心配な場合は、お住まいの警察に確認してください。

整理すると、こうです。 事業者はPSCマークのないヘルメットを日本で売れません。あなたが自分で使うために取り寄せる行為を、この法律が直接禁じているわけではありません。そして道路交通法は、マークではなく機能を求めています。

ただし、これは「だから買っていい」という意味ではありません。 法律が誰に何を求めているか、という話です。買っていいかどうかを決めるのは、合うかどうか分からないことと、あとで面倒を見てもらえないこと——このふたつのほうです。

8差額には、何が入っていないのか

最初の問いに戻ります。あの値段の差は、何なのか。

一部は、本当にただの値段差です。為替、その国の物価、流通経路の違い。そこは正直に認めるべきところです。

残りは、こうしたものです。

  • 試着——あなたの頭に合うかどうかを、買う前に確かめる機会
  • フィッティング——合わせ込む作業そのもの
  • 補修部品——内装がへたったとき、シールドを割ったとき
  • 点検——転んだあと、まだ使えるのかを見てもらう窓口
  • 保証——最初から不具合があったときの逃げ道
  • 返品・交換——国境をまたぐと、送料も手間も一気に上がります

これらを一つも使わずに済むなら、差額はそのまま得です。一つでも必要になったら、そこで逆転します。 そして、どれが必要になるかは買う前には分かりません。

もう一つ。合わなかったヘルメットの価値は、値段に関係なくゼロです。 頭に合っていないヘルメットは、事故のときに脱げます。安く買えたかどうかは、そこには関係しません。

9それでも買うなら、確認すること

ここまで読んで、それでも海外通販を選ぶ理由はあります。日本で売られていないモデル、日本に入ってこないグラフィック、サイズ展開。そういうときのために、確認する順番を置いておきます。

  1. そのページは、何の認証を書いているか。 ECEなのか、DOTなのか、書いていないのか。モデル名ではなく、ここを見ます。
  2. 同じ名前の別仕様が存在しないか。 末尾の一文字、括弧書き、型番の枝番。RPHA 12とRPHA 12Nの差は、それだけでした。
  3. 国内の窓口に、点検と部品供給を受けられるか聞いたか。 買う前に。
  4. 返品・交換の条件を読んだか。 国境をまたいだ返送になります。タグやシールを外す前に、フィットを確かめてください。
  5. 頭のサイズと形を、実際に測ったか。 頭囲は出発点であって、答えではありません。

そして、いちばん効くのは今も昔もこれです。店で被ること。 どのメーカーを選ぶにせよ、店頭で計測して試着するという行為そのものが、規格の議論よりもあなたの安全に効きます。

ヘルメットが決まったら、次は行き先です。Japan Bike Cafeは、バイクで行く目的地を集めたディレクトリです。 現在地や都道府県から探せて、駐車場の路面(舗装/未舗装)とアクセス路の路面、そして一般的な地図には載らないライダー向けのメモを掲載しています。

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よくある質問

並行輸入のヘルメットは違法ですか?

消費生活用製品安全法が禁じているのは、PSCマークのない乗車用ヘルメットを「販売する」ことと「販売の目的で陳列する」ことです。この義務を負うのは、製造・輸入・販売の事業を行う者。個人が自分で使うために取り寄せる行為を直接禁じる規定ではありません。ヘルメットの輸入そのものにも特別な規制はありません。ただし、これは「安全だ」という意味でも「おすすめ」という意味でもありません。法律が誰に何を求めているか、という話です。

個人輸入したヘルメットで公道を走れますか?

道路交通法が乗車用ヘルメットに求めているのは、道路交通法施行規則第9条の5にある7つの要件です。視野、ひさし、聴力、衝撃吸収性と耐貫通性、あごひも、2kg以下の重量、人体を傷つけない構造。この7項目のなかに、PSC・SG・JISといったマークの名前は出てきません。つまり、マークが貼られていないこと自体が、ただちに着用義務違反になるわけではありません。実際の判断は個別の状況によりますので、心配な場合はお住まいの警察に確認してください。

「アジアンフィット」とは何ですか?

メーカーが市場ごとに内装の形を作り分けている、その区分の呼び名です。製品の区分であって、あなたの頭についての診断ではありません。日本人の頭が全員同じ形をしているわけではないのは、全員が同じサイズではないのと同じです。「アジア人だから丸いはずだ」も「日本人向けだから合うはずだ」も、あなた個人については何も保証しません。必要なのはアジアンフィットでも欧米仕様でもなく、あなたの頭に合うヘルメットです。測って、被って、確かめる。それ以外にありません。

「逆輸入」ヘルメットとは何ですか?

日本のメーカーが海外市場向けに出した製品を、海外から日本へ買い戻したものを指して使われる言い方です。ブランドは日本のものでも、その個体は海外市場向けに作られています。アライは自社のFAQで、海外向け製品と日本国内向け製品とでは内装の形状が全く異なると述べており、海外向け製品を日本で使わないよう求めています。ブランドが日本のものであることは、その個体が日本市場向けであることを意味しません。

海外のSHARPの星は、日本で売られている同じ名前のモデルにも当てはまりますか?

そのまま当てはめることはできません。SHARPが試験しているのは英国市場で売られている個体です。メーカー自身が市場ごとに別製品として扱っている以上、英国市場の個体で出た星が、日本市場向けの同じ名前のモデルの成績になるわけではありません。星を見るときは、それがどの市場の個体に対して出たものかを確認してください。