グローブをはめた手で持たれたフルフェイスヘルメット。奥に停めたバイクがぼやけて見える
目次(タップで開閉)
  1. 1. はじめに:この記事が答えようとしていること
  2. 2. ヘルメットの構造 — 4つの層が別々の仕事をしている
  3. 3. 帽体素材 — 3つの系統と、無数の商品名
  4. 4. 日本の法規と規格 — 実は「国が試験している」わけではない
  5. 5. 海外の規格 — 「誰が、いつ、どの個体を」調べているか
  6. 6. 規格が試験していないこと
  7. 7. 同じ規格でも保護性能は違う — SHARPという証拠
  8. 8. 「頭はいくらの価値か」を、まともな質問に作り直す
  9. 9. フィッティング — たぶん、この記事で最も重要なセクション
  10. 10. あご紐 — 統計上、最も多く失敗している装備
  11. 11. ヘルメットの形状 — あなたは、どう打たれるか選べません
  12. 12. ヘルメットの役割は、ここまでです
  13. 13. 静けさと重量 — 快適性ではなく、安全の話
  14. 14. 落とした・軽く転んだ。まだ使えるのか
  15. 15. 寿命と保管 — 「3年」の正体
  16. 16. ラベルの読み方 — 店頭用クイックリファレンス
  17. 17. まとめ — 決めるのはあなたです

1はじめに:この記事が答えようとしていること

「ヘルメットは高いものを買え。頭の値段はいくらだ?」

ヘルメット選びでいちばんよく聞くアドバイスで、いちばん雑なアドバイスでもあります。

このフレーズには、ひとつの前提が隠れています。「価格と保護性能は比例する」という前提です。でも、10万円のヘルメットと3万円のヘルメットが同じ安全規格を取っているなら、10万円のほうが頭をよく守るという保証は、どこにもありません。規格が保証しているのは「その規格が定める要件を満たした」こと。それだけです。

では価格差は何なのか。何にお金を払っているのか。そして、どこまでが「妥協してはいけない安全の最低条件」で、どこからが「あれば嬉しい機能」なのか。

その線引きをするための材料を、この記事に並べました。どれが最も安全かという結論は出しません。そして、それ自体が、この記事が調べた末に出た結論です。 それを決められるだけの証拠が、公開されていないからです。事故の形は無数にあって、それを完全に予測できる試験もありません。だから最後は、あなたがどういう乗り方をして、どのリスクを受け入れるかで決まります。

この記事が壊しにいくもの

  • 高いほうが安全だ
  • カーボンは強いから安全だ
  • 硬いほど守ってくれる
  • PSCマークは、国が安全を確かめた印だ
  • 日本の規格は世界一厳しい
  • 同じ規格を取っていれば、安全性は同じ
  • 風洞を持っている会社のヘルメットは、よくできている

どれも、初心者の思い込みではありません。 売る側が長く広めてきたことです。そしてそれが、ライダーのあいだで当たり前の事実として回っていきます。だから、乗っている年数は防御になりません。 長く乗っているほど、善意ではあっても裏づけのない話に、長く触れてきています。

なぜ特定のメーカーばかり引用するのか

この記事にはSHOEI、Arai、AGV、OGK Kabuto、HJCといったメーカー名が何度も出てきます。理由は単純で、この各社が、何かを公表しているからです。 構造、素材、安全性能の考え方、交換時期。日本語でも英語でも、一次情報として読める材料がある。だから引用できます。

ここには、認めておかないといけない歪みがあります。公表している会社ほど、こうして詳しく検証されます。何も言わない会社は、検証もされません。 つまりこの記事は、口を開いた会社を厳しく扱い、黙っている会社を素通りさせています。公平ではありません。ただ、検証できる材料が他にないので、こうなります。

そして、引用は推奨ではありません。 この記事には、各社の説明が筋の通ったものだと書く場面もあれば、その主張は検証できないと書く場面もあります。どのメーカーの製品が値段に見合うのか。それについて、この記事は答えを持っていません。

2ヘルメットの構造 — 4つの層が別々の仕事をしている

1 2 3 4 1 帽体(シェル)貫通を止め、受け流し、広げ、滑る 2 EPSライナー白い発泡。潰れて吸収する“本体”。戻らない 3 内装(コンフォート)フィットを作る層。へたれば緩み、緩めば脱げる 4 保持装置(あご紐)外れれば他の3層は無意味。最も失敗が多い装備
ヘルメットの4層構造。外から順に、それぞれ別の仕事をしている。命を守るのは②が潰れること。

ヘルメットは、外から順に4つの層でできています。4つとも必要で、役割ははっきり違います。

帽体(シェル) — いちばん外側の硬い殻。仕事は4つ。貫通を止める(ガードレールの端、路面の突起、飛んできた物)。衝撃を受け流す面に広げる(一点に集中した力のうち、逃がせる分は逃がし、残りを下のEPS層のより広い面積に散らす)。そして滑る——路面に引っかからないように、です。

そして帽体は、衝撃を吸収する層ではありません。 ここ、本当に多くの人が取り違えています。吸収するのは、次の層です。

衝撃吸収ライナー(EPS) — 帽体のすぐ内側にある、白い発泡スチロール。これが本体です。

衝撃を受けると、この層が潰れます。 潰れることで、頭が止まるまでの時間が延びる。時間が延びれば、頭にかかるG(加速度)が下がる。

そして——EPSは、潰れることで仕事をします。 潰れた部分は戻りません。同じ場所への2回目には、もう対応できない。外から見て問題がなくても、中の発泡はもう仕事を終えている可能性があります。

内装(コンフォートライナー・チークパッド) — 頬と頭に当たる、布とウレタンの層。快適さのためのものだと思われがちですが、フィットを作っているのはこの層です。そしてフィットは、安全装備。ウレタンはへたる。へたれば緩む。少し緩めば、頭が中で動き、その動きは何にも受け止められない。大きく緩めば、ヘルメットそのものが脱げる。どちらも、保護性能を大きく損ないます。

保持装置(あごひも) — 帯とバックル。ここが機能しなければ、他の3層は、路面を転がっているだけの物体です。

ヘルメット選びの議論は、ほとんどが帽体素材と規格に費やされます。ところが統計上、いちばん多く失敗しているのは、この4番目の層です。

外から見て問題がなくても、中の発泡はもう仕事を終えている可能性があります。

3帽体素材 — 3つの系統と、無数の商品名

帽体の素材はメーカーごとに独自の名前がついていて、混乱しやすいところです。でも、大きく3系統しかありません。

ポリカーボネート(PC)系 — 熱可塑性樹脂

金型に流し込んで成形する、いわゆるプラスチック。

  • 長所:量産に向いていて安い。製造ばらつきが小さい。粘りがあり、割れずに変形して衝撃を受け止めることがある。
  • 短所:同じ強度を出そうとすると重くなりがち。溶剤・ガソリン・接着剤・一部の洗剤に弱く、触れると目に見えない劣化を起こす(メーカーがはっきり警告しています)。紫外線と熱の影響も受けます。
  • 価格帯:エントリー〜ミドル。

FRP(繊維強化プラスチック)系 — ガラス繊維など

ガラス繊維に樹脂を染み込ませて積層する、手間のかかる製法。GFRPとも呼びます。

  • 長所:軽さと強度のバランスが良い。積層構成を場所ごとに変えられるため、設計自由度が高い。
  • 短所:手作業の工程が多く、値段が上がる。
  • 価格帯:ミドル〜ハイ。国内メーカーの主力はここが多い。

炭素繊維(カーボン/CFRP)系

炭素繊維を積層したもの。いちばん高い価格帯で、多くはフラッグシップモデルに限られます。カーボンの織り目——あの独特で格好のいい見た目を活かした仕上げが多いのも、この系統。

  • 長所:FRPよりさらに軽い(強度対重量比が優れる)。軽さは、首の疲労と事故時の回転慣性の両方に効く——理屈のうえでは。ただし、総重量で30〜50gの差を体で感じ取れるかは怪しく、その差がケガをどれだけ減らすかの実証データもありません。
  • 短所:高い。
  • 価格帯:ハイ。

そして規格の側から見ると、ガラスとカーボンは同じ棚に載っています。SG基準は、GFRPもCFRPも同じ「繊維強化プラスチック製」の区分にまとめています。

ここで押さえるべきこと

各社の「◯◯シェル」「△△マトリックス」といった名称は、配合と積層構成につけた商品名——そこから分かるのは、素材の系統だけです。規格ではありません。名前が違えば製法の細かな違いは分かります。でも、性能が違うことの証明にはなりません。

そして最も大事なこと:素材の系統は、その帽体がどの規格に通ったかを決めません。 ポリカーボネートでJIS 2種に通っているヘルメットは、カーボンでJIS 2種に通っているヘルメットと、その規格が要求する範囲では同じです。保護性能に差がつくとすれば、それは規格の「上」の話。そしてその差は、2つを実際に試験して比べないかぎり見えません。英国のSHARPがやっているのが、まさにそれです。

4日本の法規と規格 — 実は「国が試験している」わけではない

道路交通法が要求していること

道路交通法第71条の4が、二輪車の運転者と同乗者にヘルメット着用を義務づけています。では「ヘルメット」とは何か。道路交通法施行規則第9条の5が定めているのは、次の5項目だけです。

  1. 左右および上下の視野が十分とれること
  2. 風圧によりひさしが垂れて視野を妨げることのない構造であること
  3. 著しく聴力を損ねない構造であること
  4. 衝撃吸収性があり、かつ、帽体が耐貫通性を有すること
  5. 衝撃により容易に脱げないように固定できるあごひもを有すること

読めば分かるとおり、試験方法も数値も一切ありません。 「衝撃吸収性がある」とは何Gまでなのか、どんな速度で落とすのか、法律は何も言っていません。文言のうえでは、玩具のヘルメットでもこの5項目を満たし得ます。 道交法だけでは、ヘルメットの安全性は担保されません。

PSCマーク — 販売の条件であって、第三者試験ではない

丸形(円形囲み) PSC 特定製品 事業者自身が確認(自己確認品目) 乗車用ヘルメットは、こちら ひし形(◇囲み) PSC 特別特定製品 登録検査機関が確認(第三者) ライター、乳幼児用ベッドなど
同じ「PSC」でも、形が違えば確かめた人が違う。乗車用ヘルメットは、丸形。

乗車用ヘルメットは、消費生活用製品安全法上の特定製品に指定されています。事業者は、PSCマークが付されていないものを販売してはならず、販売目的で陳列することもできません(法第4条)。これは輸入品でも中古品でも、個人であっても同じです。フリマアプリへの出品も「販売の目的で陳列」に当たり得ます。

ここまでは多くの記事に書いてあります。書かれていないのはこの先です。

マークの形が、「誰が確かめたか」を示しています

PSCマークには2つの形があります。 そして形が違うのは、デザインの都合ではありません。確認したのが誰かが違います。

マークの形 区分 誰が確かめたか
丸形(円形囲み) 特定製品 事業者自身(自己確認品目)
ひし形(◇囲み) 特別特定製品 登録検査機関(第三者の適合性検査)

経済産業省の説明によれば、特別特定製品は、検査記録の作成・保存に加えて登録検査機関の適合性検査を受け、証明書の交付を受けて保存するなどの義務を履行したときに、◇囲みのPSCマークを付けることができます(法第13条)。一方、特別特定製品以外の特定製品は、円形囲みのPSCマークです。

そして東京都の消費生活担当は、こう書いています。「特別特定製品以外の特定製品は、『自己確認品目』といわれるもので、事業者自身の検査によりPSCマークを表示できる品目のことです」。

乗車用ヘルメットは、特定製品です。 つまり——

あなたのヘルメットに貼られているPSCマークは、丸形です。そして丸形は、「メーカーが自分で確かめました」という意味です。

これは「だからPSCは無意味だ」という話ではありません。法第4条により、PSCマークのない乗車用ヘルメットは、日本で販売も陳列もできません。 最低条件としては機能しています。ただ、その最低条件を確かめたのが誰なのかは、知っておいて損はありません。

つまり、PSCマークは「国が確かめた」証明ではありません。「メーカーが自分で試験し、適合していると宣言した」という証明です。

ここで読者に考えてほしいこと

自己認証という仕組みは、それ自体が悪いものではありません。ちゃんとした試験設備を持ち、社内基準を法規より厳しく設定し、記録を残しているメーカー——長期的な信用とブランドの評判を大切にするメーカー——であれば、自己認証でも実質は担保されます。

問題は、その仕組みがメーカーの誠実さに寄りかかっていることです。そして自己認証は、誠実なメーカーと不誠実なメーカーを外から見分ける手段を、買う側に渡してくれません。どちらのヘルメットにも、同じマークが貼ってあります。

そこで、核心の問いです。

業界規制が緩い国の、ブランド価値をほとんど持たない無名の格安メーカーが、自分で「基準に適合しています」と宣言したマーク。これをあなたはどれくらい信用しますか。

私たちはこれに答えません。答えられないからです。実際、その多くは真面目に作られているかもしれませんし、そうでないと言える材料もありません。ただ、比べる話として言えることはあります。試験に合格させても不合格にしても収入が変わらない第三者が試験した認証のほうが、合格させることに経済的利益がある当事者が自分で試験した認証よりも、構造的に信頼性が高い。 これは特定のメーカーへの評価ではなく、制度の設計についての一般論です。

そして実際に、非適合ヘルメットや模倣品が国内市場に流通しているという報告は、日本ヘルメット工業会からも出ています。SHOEIも、模倣品のなかに安全性能の基準を満たしていないものが確認されたと述べています。

どこまでを許容するかは、あなたのリスク許容度の問題です。

SGマーク — 第三者認証と、賠償制度

SGマークは一般財団法人製品安全協会による任意の認証です。取るのは義務ではありません。PSCとの決定的な違いは2つ。

1. 第三者認証であること。 協会が定めた認定基準に基づき、協会の枠組みで確認されます。登録工場制度もあります。自己確認であるPSCとは、ここが構造的に違います。

2. 賠償制度が付いていること。 SGマーク付き製品の欠陥によって人身損害が生じたと認められた場合、製品安全協会が賠償します。

賠償制度の条件は具体的です。

  • 上限は1事故あたり1億円、その範囲内で1人あたり最大1億円
  • 日本国内で発生した事故に限る
  • 原則としてSGマークの表示有効期限内の事故が対象
  • 事故発生からなるべく早く、遅くとも60日以内に事故発生届の提出
  • 事故品はそのまま保存する(保存状態が悪いと原因究明ができず賠償できない場合がある)

ここは正直に書きます。この制度が発動するのは「製品の欠陥」による事故だけです。 単に転んで頭を打った、では対象になりません。ヘルメットが本来の基準を満たしていなかったせいで、怪我をした、あるいは怪我が広がった、というケースです。実際に支払われた事例を一般ライダーが目にすることはほとんどありません。

では意味がないかというと、そうではありません。賠償制度が付いているということは、認証団体が自らリスクを取っているということです。認証が形骸化していれば、協会自身が損をする設計になっている。この構造そのものが、認証の本気度の担保になっています。値打ちはそこにあります。

SG基準は2026年7月7日付で改正され、同日から新基準での事務受付が始まっています。 理由は、JIS T8133が2026年版として改正発行され、消安法に定める技術上の基準も2026年版を引用することになったためです。

技術的な要求で主に変わったのは、電子デバイスを備えたヘルメットの部分です。 従来の一般的なヘルメットについては、製品表示事項および取扱説明書記載事項に文言が追加された、というのが変更点。つまり、衝撃吸収性や耐貫通性といった中核の試験は、普通のヘルメットについては変わっていません。

旧基準の併存期間は2027年3月末日まで(JIS T8133(2026)の併存期間に合わせたもの)。

SGの賠償は、シールドを含みません

もう一つ、実用的に重要な点です。SG基準は、取扱説明書に次の趣旨を明示することを求めています。

SGマーク制度は、ヘルメット(シールド等の付属品は含まない。)の欠陥によって発生した人身事故に対する補償制度である旨

シールドは、SGの賠償制度の対象外です。 耳覆い、ひさし、シールド、通信機器、電子デバイスといった附属品は「ヘルメット」に含まれません。1億円の賠償措置は、帽体・衝撃吸収ライナー・保持装置についてのものです。

なお2026年基準では、附属品を取り付けた後もこの基準の要求に適合しなければならないという条項が置かれています(附属品=耳覆い、ひさし、シールド、通信機器、電子デバイス等)。インカムや電子デバイスを付けること自体が、基準適合の問題になり得るということです。

ヘルメットに何かを付けることについて、3つの制度が3つの答えを出しています。

制度 附属品への態度
ECE 22.06 付けた状態で試験する。 インカム等も対象
SG(2026年) 付けた後も基準に適合していること
MFJ(競技) 禁止。 ヘルメットおよび装備品へのウェアラブルカメラ等(取付ステーを含む)の装着、イヤホン・マイクの付加を禁じる

ヘルメットにカメラを付けているなら、日本の競技団体はそれを禁じていることは知っておいてよいと思います。理由は公開されていないので、そこから何を読み取るかは、あなたの判断です。

JIS T8133 — 1種と2種、そして排気量の落とし穴

JISは任意規格ですが、PSCとSGが基準として引用しているので、実質的には日本のヘルメット規格の土台です。

重要なのは種別と排気量の対応です。

種別 対象 主な形状
1種 125cc以下 ハーフ形、スリークォーターズ形
2種 排気量無制限 オープンフェース形(ジェット形)、フルフェース形

SGにも同様に125cc以下用の限定規格があります。ここに実害のある落とし穴があります。

SGマークの125cc以下用ヘルメットを着用して126cc以上のバイクに乗った場合、その賠償が受けられない可能性があります。

ハーフキャップの多くは125cc以下用です。それを大型に被って走ることに、ライダー自身への法的な罰則はありません。でも賠償制度の対象外になる可能性があって、そして何より、規格が想定していない使い方です。

参考までに、JISの衝撃吸収性試験の中身を並べてみます。差は、はっきりしています。

1種(ハーフ形・スリークォーターズ形)

  • 平面形アンビル:5.8m/s(落下高さ1.72m)で試験範囲の2点
  • 半球形アンビル:4.8m/s(落下高さ1.17m)で別の2点
  • 耐貫通試験:3.0kg・先端角度60度の円すい形ストライカーを1mの高さから2箇所

2種(ジェット形・フルフェース形)

  • 平面形アンビル:同一点に2回。1回目7.0m/s(落下高さ2.5m)、2回目5.0m/s(落下高さ1.28m)
  • 半球形アンビル:同じく同一点に2回、7.0m/sと5.0m/s
  • 耐貫通試験:同じストライカーを2mの高さから2箇所

落下高さで見れば、貫通試験は2倍。衝撃吸収試験も、2種は同じ場所に2回入れられます。「1種と2種は形が違うだけ」ではありません。要求水準そのものが違います。

このほかに、保持装置の強さ試験、保持性(ロールオフ)試験、周辺視野試験が加わります。ロールオフ試験、つまり「ヘルメットが前や後ろに転がって脱げないか」の試験があることは、覚えておいてください。

5海外の規格 — 「誰が、いつ、どの個体を」調べているか

規格を比べるとき、たいていは試験の数値(何m/sで落とすか、何Gまで許容か)が並びます。でも、実際にもっと大事なのは認証プロセスのほうです。誰が調べるのか。いつ調べるのか。市販されている個体を調べるのか、それともメーカーが送ってきた個体を調べるのか。

ここが規格ごとにまったく違います。

DOT(アメリカ/FMVSS 218)

  • 誰が:メーカー自身。自己認証です。メーカーが自分で試験し、自分でDOTステッカーを貼ります。
  • 事後:NHTSAが市場から抜き取って確認試験を行うことがあります。ただし、これは認証した側による確認ではありません。 認証したのはメーカー自身で、抜き取るのは規制当局です。
  • 注意:FMVSS 218は1988年以降、大きな構造改定を受けていません。

日本のPSCと構造がよく似ています。基準に適合しているとメーカーが宣言する制度です。

NHTSAとMSFが公開している「Modernization of the DOT Motorcycle Helmet Standard」という文書があります。DOT規格の近代化を検討したものです。そこにはこう書かれています。

  • 1996年の時点で、DOT規格が国際的な動きに追いついていないことが指摘されていた(Hurt et al., 1996)
  • 勧告:許容ピーク加速度を400Gから300Gに下げるべき
  • 勧告:保持性(ロールオフ)試験を追加すべき
  • 勧告:シールドの耐貫通性試験を追加すべき
  • 勧告:チンバーの性能試験を開発すべき

400Gから300Gへ。 ——それは、JISがすでに要求している数字です。

NHTSAの側の研究者が、DOTに対して「日本がすでにやっていることをやれ」と勧告していました。

ECE 22.06(国連/欧州ほか45か国)

  • 誰が第三者。売る前に、型式認可(type approval)を取る必要があります。
  • 事後:生産の適合性(conformity of production)の監査があります。つまり、認可を取ったあとも、実際に作っている製品が認可時と同じかを継続的に見られます。
  • 2024年1月から、新設計は22.06でしか認可を取れません。

22.05から22.06への変更には、この記事の話にまっすぐ効いてくるものが混じっています。

項目 22.05 22.06
衝撃点 6点(固定) 最大18点
試験速度 実質1速度 6.0 / 7.5 / 8.2 m/s
斜め衝撃(回転) なし あり
チンバー速度 5.5 m/s 6.0 m/s
シールド 6mm・0.86g以上の鋼球を60m/sで発射(高速飛来物対策)。附属書17
フリップアップ 後→前のロールオフのみ 前→後の逆ロールオフ、開状態でのロールオフ、開・閉両状態での衝撃試験

そして、この改定の中に、一つだけ性質の違うものがあります。22.06は「低速」試験(6.0m/s)を追加しました。 その理由が、少し意外です。高速衝撃に対応するために帽体をとても硬く作ると、低速では十分に変形できず、衝撃を吸収できない——そういう研究結果があったからです。

ただし、ここで先に書いておきます。その22.06に適合した新品のヘルメットでも、独立評価では3つ星に留まる製品が現に存在します。 規格への適合と、保護性能の高さは、別の話です。

つまり、硬ければ硬いほど安全、ではありません。 硬すぎるヘルメットは、公道で現実に起こりうる低速の打撃には、むしろ不利になり得る。「頑丈そうだから安心」という直感は、ここで裏切られます。

SNELL(民間非営利/M2025)

  • 誰が第三者。スネル記念財団はカリフォルニアに自前の試験所を持ち、メーカーが任意に提出したヘルメットを試験します。
  • 事後:ここが独特です。認証済みのヘルメットを小売店から無作為に購入し、継続的に試験しています。 メーカーが「試験用に用意した個体」ではなく、あなたが買うのと同じ棚の個体を買って壊す、ということです。認証の信頼性という点では、これはかなり強い。
  • 更新:おおむね5年ごと。

現行はM2025で、2つに分かれています。

  • M2025D:DOTとJISに整合。ピーク加速度 243G / 275G。
  • M2025R:ECE 22.06とFIM規格にも対応。ピーク加速度 257G / 275G。

なぜ2つに分かれたのか。スネル自身の説明によれば、ECE R22-06が従来のスネル規格と両立しないように見えたためです。業界はスネルの歴代規格(M2010、M2015、M2020D)とJIS・DOTに合わせて設計と技術を作り込んできた。そこにECEが来て、方向性が食い違った。

そして、その後どうなったかは、財団の認証一覧を見れば分かります。

一覧 版の日付 載っている機種
M2025D(従来路線の継承) 2026年7月15日 49機種/9社
M2025R(ECE 22.06と両立させるための枝) 2026年6月16日 2機種

M2025Rが発効したのは2024年8月1日です。 そこから2年近く経って、2機種。しかも旧版のM2020R(2026年6月7日版)も2機種でした。Rの枝は、2世代にわたって2機種のままです。 一方、従来路線を継いだDの枝には49機種が並んでいます。

業界がどちらを選んだのかは、数えれば分かります。なぜそうなったのかは、この記事には分かりません。 財団も業界も、理由を公表していません。

これは規格の世界で何が起きているかを示す、とても正直なエピソードです。「どちらが正しいか」に業界内でも合意がない。 ECEは相対的に柔らかい帽体へ、スネルDは硬めの高エネルギー対応へ。向いている方向が違います。両方とも真剣な専門家が真剣に作った規格です。それでも噛み合わない。

そして、これはスネルだけが言っていることではありません。まったく利害を共有しない4者と、1本のデータが、同じ現象について同じことを言っています。

  1. スネル — ECE 22.06が従来のスネル規格と両立しないように見えたため、M2025を2つに分けた
  2. ECE — 高速衝撃向けに硬く作った帽体は低速で吸収できないという研究を根拠に、低速試験を追加した
  3. Arai — 一部のメーカーは弱い帽体を補うために硬いライナーを使い、規格試験に通すために保護のバランスを変えている、と主張している
  4. SHOEI — 世界の規格には帽体に高い剛性を要求するものもあれば、初期衝撃エネルギーの低さを要求するものもある。だから世界のすべての規格に対応した試験設備を持っている(投資家向けIR資料)
  5. そしてデータ — Thomら(1992年)は、DOT適合ヘルメットとスネル認証ヘルメットを、同じ条件で単発衝撃で比較しました。DOTは平面アンビル6.0m/s、スネルは8.0m/s。結果は、単発衝撃では、DOT適合ヘルメットのほうがスネル認証ヘルメットより良い成績だった。 この文書は、そのうえで「現時点で、DOTの衝撃速度を引き上げる説得力のある根拠はない」と述べています。

そしてThomらの結果は、ECEが2022年に低速試験を追加した理由——高速向けに硬く作った帽体は低速で吸収できない——と、同じ現象を30年早く観測しています。

規格同士は矛盾しており、業界もそれを知っている。では、どちらの規格が優れているかを、何を根拠に決めればいいのか。それを決められるのは、あなただけです。

M2025DもM2025Rも、斜め衝撃試験を追加しました。45度に傾けた80番手のサンドペーパー面に8.0m/sで落下させ、回転加速度10,000rad/s²以下、BrIC 0.78以下を要求します。

「スネルの斜め衝撃はECE 22.06より厳しい」と業界誌は書きます。両方の規格の本文を並べると、こうなります。

ECE 22.06 SNELL M2025D/M2025R
落下速度 8.0 m/s 8.0 m/s
BrIC 0.78以下 0.78以下
回転加速度 10,400 rad/s²以下 10,000 rad/s²以下
アンビル 45度・P80研磨紙 45度・80番手研磨紙
衝撃 2個・部位指定の5か所に各1回 2個・各最大3回(Z軸まわりの向きは試験技術者が選ぶ

厳しいのは、回転加速度の1項目だけです。 10,000と10,400。差は400、率にして3.8%。速度もBrICも同じ数字です。 そしてスネル財団自身が、この10,000について「草案段階で提案されていた9,000から引き上げた」と書いています。

スネル財団の説明文書は、自分の斜め衝撃試験を「FIM FRHPhe#1およびECE R22-06のものと類似」と書いています。財団自身が、別物だとは言っていません。

ただし、人頭模型の表面が違います。 ECEは模型表面とヘルメット内装生地との摩擦係数0.3±0.05を指定し、スネルはFIM FRHPhe#1のシリコーン塗布を指定します。回転は表面の滑りで決まる試験です。だとすると、そもそも二つの数字を直接比べられるのか——という問題が残ります。

なお、スネル財団は smf.org で認証モデルのデータベースを公開しています。ステッカーは認証ではありません。型式が同社サイトに載っていなければ、貼ってあっても認証されていません。

FIM(FRHPhe)

プロレース用の規格。市販もされていますが、値段が一気に跳ね上がります。公道ツーリングの話では選択肢に挙げる意味が薄いので、この記事では深追いしません。

まとめ:安全規格 早見表

ここまでに出てきた規格を、一枚にまとめます。この記事でどれか一つだけ持ち帰るなら、この表です。

規格 どこの制度か 強制力 主な試験内容 衝撃点の数 斜め衝撃(回転)試験 独自/特筆すべき点 誰が試験するか
道路交通法(施行規則9条の5) 日本 着用義務(法71条の4) なし —(試験規定なし) なし 視野・ひさし・聴力・衝撃吸収+耐貫通・あごひもの5要件のみ。試験方法も数値も一切規定なし 誰も試験しない
PSC 日本(消費生活用製品安全法) 販売に必須。マークなしは販売も陳列も不可 JIS T8133:2026を引用(2026年改正) JIS T8133:2026による(4点) なし 特定製品=自己確認品目「装飾用」と表示して売っても法の対象外にはならない(DOT・ECE・SNELL適合品を装飾用・レース専用として売るのは不可)。原付等用の排気量表示は14ポイント以上が要件 メーカー自身(届出+自社検査+自らマーク表示)。国が臨時に抜き取ることはある
SG 日本(製品安全協会) 任意 衝撃吸収、あごひも強度、ロールオフ等 JISに準拠(4点) なし 賠償制度付き(1事故1億円上限/国内事故/有効期限内/60日以内届出)。有効期限は購入後3年。125cc以下用の区分あり 第三者(製品安全協会)+登録工場制度
JIS T8133 日本(日本産業規格) 任意(ただしPSC・SGが引用=実質の土台) 1種/2種で要求が別。平面・半球アンビル、耐貫通、保持装置強度、ロールオフ、視野 4点。試験機関が範囲内で任意に選定 なし 1種=125cc以下(貫通1m)/2種=排気量無制限(貫通2m、同一点に2回衝撃)。 引用元の制度による(PSC=自己確認/SG=第三者)
DOT(FMVSS 218) アメリカ 販売に必須 平面6.0m/s・半球5.2m/s、ピーク400G以下(200G超2.0ms以下/150G超4.0ms以下)。常温/低温/高温/水浸 4点、各2回。試験機関が試験ライン上・上方で選定 なし 1988年以降、大きな構造改定なし。チンバーの試験もなし メーカー自身(自己認証)。NHTSAが市場から抜き取ることがある
ECE 22.06 国連(欧州ほか45か国) 販売に必須(2024年1月以降、新設計は22.06のみ) 速度6.0/7.5/8.2m/s、チンバー6.0m/s、シールドに鋼球発射 最大18点。6標準点+試験機関が無作為に追加選定。メーカーは事前に知り得ない あり。45度・P80・8.0m/s、回転加速度10,400rad/s²以下、BrIC 0.78以下 低速6.0m/sを追加(硬すぎる帽体は低速で吸収できないため)。フリップアップは開・閉両状態で試験。P/J表記 第三者(型式認可)+生産適合性の継続監査
SNELL M2025 民間非営利(米・財団) 完全に任意 M2025D:ピーク243G/275G(DOT・JIS整合)M2025R:ピーク257G/275G(ECE 22.06・FIM対応) 試験機関が試験ライン上方で任意に選定(弱点を狙う) あり(M2025で追加) ECE 22.06と両立しないため規格を2つに分割 第三者(財団の自前試験所)。さらに、認証済みヘルメットを小売店から無作為購入して継続試験
FIM(FRHPhe) 国際モーターサイクリズム連盟 任意(プロレース用) 8.5m/sまで 9〜13点 あり(回転力を評価) 取得の前提としてECE/SNELL/JIS/DOT+SNELLのいずれかの認証が必要 第三者
SHARP(規格ではない) 英国運輸省(TRL運営) 認証ではなく評価 最低7個体、6/7.5/8.5m/s、平面+縁石形状 32試験(直線30+斜め2) あり(32試験中2試験) 星1〜5で公表。規格ではなく「規格の上」を測る唯一の制度。フリップアップはラッチ率を別途公表(星に不算入) 第三者・政府出資。メーカーから資金を受けていない

この表から読み取ってほしいこと

1. 日本で売るために必要なPSCは、自己認証です。 国が試験しているわけではありません。DOTと同じ構造です。

2. 日本の制度は、回転を試験していません。 斜め衝撃を試験しているのは、ECE 22.06、SNELL M2025、FIM、そしてSHARPです。

3. 「厳しさ」に単純な序列はつきません。 これはJISとDOTを並べるとよく分かります。

JIS 2種 DOT
ピーク加速度 300G以下 ← 厳しい 400G以下
平面アンビル速度 7.0 m/s ← 高い 6.0 m/s
150G超の継続時間 6ms以下 4.0ms以下 ← 厳しい
200G超の継続時間 規定なし 2.0ms以下 ← DOTのみ
同一点への2回打撃 あり あり
誰が試験するか 制度による(PSC=自己確認/SG=第三者) メーカー自身(自己認証)

JISはピークと速度で厳しく、DOTは継続時間の規定が細かい。 どちらが「上」とは言えません。

他の項目も同じです。衝撃点の数ならECE 22.06。市販個体の抜き取りならSNELL。賠償制度ならSG。回転を見るならECE 22.06かSNELL M2025。項目ごとに勝者が違います。どの項目を優先するかは、あなたが決めることです。

4. そして規格は、合否しか答えません。 どの規格も「その試験に通った」としか言っていません。その上に差があるかどうかを測っているのは、この表の中でSHARPだけです。

誰が調べるかは制度ごとに違い、規格同士は逆を向いている。そのうえ、どれも合否しか答えない。「どの規格に通っているか」でヘルメットを並べることはできません。規格は順位ではなく、床だからです。

そして、あなた自身が答えを出すべき問いは、自分の床をどこに置くか、です。 日本で普通に買えばPSC/SGは付いてきます。それを自分の床とするのか、別の試験項目も求めるのか。決めるのはあなたです。

そして、床をどこに置いても——どの規格も、試験していないことがあります。 次はその話です。

6規格が試験していないこと

規格の試験:真上から 直線的な衝撃(G)を測る 実際の事故:斜めから+滑る 回転が生じ、脳がねじれる(=回転加速度)
規格の多く(日本のPSC/SG/JISを含む)は左の「真上から」を測る。実際の事故は右——斜めに当たって滑り、脳がねじれる回転が起きる。ここを試験するのはECE 22.06・SNELL M2025・SHARPだけ。

どの規格も、決められた条件で決められた試験をします。裏を返せば、決められていない条件は試験されていません。 これは規格の欠陥ではなく、規格というものの性質です。

実際の事故は、実験室のようには起きない

規格試験の基本形は「人頭模型に被せたヘルメットを、決まった形のアンビルに、決まった速度で、垂直に落とす」です。

実際の転倒はこうではありません。あなたは前に進んでいて、頭は斜めに路面に当たり、そのまま滑ります。垂直の打撃ではなく、こすれながらの斜めの衝撃です。

この違いが生むのが回転です。頭が斜めに叩かれると、頭蓋骨が回転し、中の脳が遅れてついてくる。この「ずれ」が脳組織を引き裂きます。びまん性軸索損傷と呼ばれるものです。近年の研究では、重篤な脳損傷の多くがこの回転によるものだとされています。

ECE 22.05にもDOTにも、この斜め衝撃試験はありません。 加わったのはECE 22.06からです。スネルもM2025で追加しました。日本のJIS T8133、そしてそれを引用するPSC・SGにも、斜め衝撃の要求はありません。

これは、日本のライダーには大きい話です。PSC/SGマークが貼ってあるヘルメットは、回転についての試験を受けていません。 日本国内で売るためにはPSCが必要ですが、PSCだけで判断すると、重篤な脳損傷がどう起きるかという現代の理解を、避けて通ることになります。

公平な試験方法は、同時に悪用もされうる

公平な試験方法——条件が固定され、再現できる方法——には、そのぶんの弱点があります。悪用できてしまうことです。 打つ場所がメーカーに知られた固定の位置なら、そこだけを補強して規格を通し、ほかは弱いままにすることもできてしまう。

かつてのECE 22.05がまさにそうでした。衝撃点は6か所に固定。一部のブランドがこの隙を突いていた、と報告されています。

ECE 22.06は、スネルとDOTが以前から採っていた方法を取り入れて、これに対処しました。スネルは試験ライン上方のどこでも自由に選べ、しかも弱そうな場所を狙って打ちます。DOTも、試験機関が試験ライン上・上方から衝撃点を選びます。作り手にはどこを打たれるか事前に分からず、試験に通すためだけに設計されたヘルメットを作ることは、もうできません。

だから規格を比べるときは、衝撃の強さや方向だけでなく、衝撃の場所も見てください——メーカーに知られた固定の場所か、それとも独立した試験者が最も弱いと見込んだ、未知の場所か。

側頭部の問題

欧州で行われたCOST 327という研究(2001年報告、欧州で実施された二輪事故研究として最も包括的なもののひとつ)は、2つの重要な指摘をしました。

  1. 側頭部(temporal fossa/こめかみ周辺)が特に損傷しやすく、ヘルメット設計はここをもっと保護すべき
  2. ヘルメットのエネルギー吸収能力を30%向上させれば、AIS5/6(致命的〜生存不能)の重傷者の50%をAIS2-4(中等度〜重度)に軽減できる

7同じ規格でも保護性能は違う — SHARPという証拠

SHOEIは、JAMAの取材に対して、はっきりこう述べています。「同一の安全規格を取得しているヘルメットであれば、規格で求められるヘルメットの安全性能に差はありません」(フルフェイス・ジェット・システム・オフロードのどれが安全か、という問いへの回答として)。

メーカーがそう言うのだから、それで決まり——ジェットもフルフェイスと同じくらい安全で、同じ保護をしてくれる、そうですよね? ちょっと待ってください。この文をよく読んでください。「規格で求められる」性能に差はない、と言っています。規格の上の話は、この文は何も言っていません。

では規格の上には差があるのか。あります。それを測っている組織が実在します。

SHARP(英国運輸省)

SHARPは2007年に英国運輸省(DfT)が立ち上げた消費者情報制度で、いまはTRLが運営しています。試験費用は英国の税金でまかなわれていて、メーカーからは受け取っていません。

  • これまでに650件以上のヘルメットを試験。年30件以上のペースで継続中。
  • 1モデルにつき30回の直線衝撃試験+2回の斜め衝撃試験、計32試験。最低7個体を使用。サイズも複数。
  • 速度は6、7.5、8.5 m/sの3段階。8.5 m/sは、ECE 22.05が要求する7.5 m/sよりも、22.06の8.2 m/sよりも速い。
  • 直線衝撃は平面と縁石形状の両方に対して。実際の路上事故で当たりうる面を再現したものです。
  • 斜め衝撃は、帽体表面の摩擦特性、つまり回転加速度による損傷につながる部分を評価します。
  • 結果は1〜5つ星で公表。

なぜこの制度が作られたか。すべて当時の規格に適合していながら、保護性能にそれだけの開きがあったからです。同じDfTの調査は、ヘルメットの安全性能は小売価格に表れていないとも指摘しています。

TRLで交通安全部門を率いるPhil Martinは、2026年2月にこう書いています。「5つ星のヘルメットは——どの価格帯であっても——重篤な頭部外傷に対して確かに優れた保護性能を持つ」

これは印象論ではありません。SHARPは2026年6月にこう書いています。「SHARPは、ヘルメットの価格と星の評価のあいだに、いまも相関を認めていない」。 試験を終えたR22.06適合ヘルメットのうち、5つ星を取ったものは全価格帯にありました——原付用の安価なものから、プロ向けの高価なものまで。

フルフェイス・ジェット・オフロードなど、色も仕上げも異なるヘルメットを並べて撮影
保護性能は、外から見ても分からない。見えるのは、色と仕上げと形だけ。

いまの規格に適合した、新品の、3つ星

同じ2026年6月の記事に、こう書かれています。

「意外なことに、SHARPはいまも、R22.06に適合していながらSHARPの3つ星しか取れない新しいヘルメットを見つけている。これらは完全に合法だが、そうしたモデルをかぶることには、明確に高いリスクが伴う」

R22.06は、現時点で最も要求の多い規制です。衝撃点は最大18か所、速度は3段階、回転試験もある。その最新・最厳の規格に適合した新品のヘルメットが、独立評価では3つ星に留まっている。

星ひとつと、星5つの違い

その差が何を意味するのか。同じ記事で、SHARPはこう説明しています。

「まったく同じ衝撃をヘルメットが受けたとして、かつて1つ星のモデルを買った人が重篤〜重度の頭部外傷を負う確率が60〜80%だったところ、いま5つ星のモデルを買った人は、軽度の頭部外傷で済む確率が60〜80%になっている。その違いは、軽い脳震盪で自分の足で帰れるか、集中治療室で1週間過ごし、場合によっては一生残る後遺症を負うかの違いだ」

これはSHARPの説明です。計算の過程は示されていません。ただ、誰が言っているのかは、はっきりしています。

SHARPが他と違うのは、壊した数ではありません。採点式を、全部公開していることです。

星は、あなたにも計算できます

「SHARPセーフティレーティング算出手順」という8ページの文書が、SHARPのサイトに無料で置いてあります。

この式で、あなたは星を自分で計算し直せます。

詳しく:SHARPの星は実際どう計算されるか(技術的な補足・読み飛ばし可)

ひとつ補足を。1個のヘルメットについて出る45個の加速度の値のうち、15個は、実際には一度も打っていません。

同じ8ページに、もう少し込み入ったことが書いてあります。斜めの値が、どこから来るのかです。

実際に斜めで打つのは、2回だけです。テスト31(左側面)とテスト32(右側面)。8.5 m/sのみ。 研磨紙を貼ったアンビルに対して行い、SHARPはこの試験について「ECE 22.05の要求に完全に従っている」と書いています。

そして、この2回で測っているのは加速度ではありません。摩擦係数µです——アンビルにかかる接線力と垂直力の比を、接線力が最大になった瞬間で取る。左右で1つずつ。以降の計算に使われるのは、その2つの平均です。

残りは、計算です。手順書の言葉:

「平面アンビルに対する直線衝撃吸収試験の結果は、斜め衝撃におけるヘルメットの性能の評価にも使われる。直線の衝撃速度は、37.5度の斜め衝撃の垂直成分とみなす」

ここから、2つのことが出てきます。

ひとつ。算出される15個は、前頭・右側面・左側面・後頭・頭頂の5部位すべてについて出されます。 実際に斜めで打ったのは、左右の2か所だけです。側面で測った摩擦係数が、頭頂にも、前頭にも、後頭にも当てられている。

ふたつ。採点に使われる斜めの速度——9.9、12.3、14.0 m/s——では、一度も打っていません。 37.5度の三角法で出した速度です。

詳しく:SHARPが測っていない「回転」と、進行中の見直し(読み飛ばし可)

2026年現在、DfTは「SHARP 2025」という計画を走らせています。目的は、SHARPの試験手順と評価手順そのものの見直しと更新。その理由として挙げられているのが、これです——「実際のヘルメット衝撃において生じる回転力に伴うリスクへの着目を含む、二輪車乗員の傷害に関わる要因についての、新しい知見と理解」。

改訂案は、確定の前に、国際的な技術専門家と関係者による査読にかけられるとされています。

評価の低いヘルメットが、実際に回転を伴う衝撃で、評価の高いヘルメットを上回ることは、十分にありえます。 星の斜め成分は、回転の測定ではないからです。直線のgに、摩擦係数を掛けたものです。

分かるのは、そこまでです。そして——そこまで分かる、というのが、この節の全部です。

37.5度という仮定も、µが2回の側面衝撃から来ていることも。全部、SHARPが自分のサイトに、無料で、8ページで印刷しています。 だから、モデルが仕事をしている継ぎ目の位置を、あなたは指させます。 どこまでが測ったもので、どこからが仮定なのかが、指させる。

継ぎ目を指せる主張と、指せない主張。差は、そこです。 「SHARPが正しい」ではありません。各社自身の安全性の主張に、これはできません——反論すべき対象が、そこにないからです。

フリップアップの「ラッチ率」

SHARPにはもうひとつ、日本ではほとんど知られていない指標があります。ラッチ率です。

システムヘルメット(フリップアップ)は、チンバーが開く構造を持っています。事故のとき、これが開いてしまったら、フルフェイスの意味がありません。

SHARPは、30回の直線衝撃試験のうち、チンバーが完全に閉じたままだった回数を百分率で公表しています。30回すべてで閉じていれば100%、9回開いてしまえば70%です。

そして正直なことに、SHARPはこう書いています。このラッチ率は星の評価には織り込んでいない。 開いてしまうことが安全にどう効くのかを、まだ数字にできていないから、というのが理由です。63%のヘルメットと90%のヘルメットの安全差がどれくらいかは示せない。ただし、低いほどリスクは上がる、と。

つまり、星5つでもラッチ率が低いフリップアップは存在し得ます。 システムヘルメットを考えているなら、星だけを見ないでください。

では、なぜ独立評価が日本にはないのか

ありません。日本には、市販のバイク用ヘルメットを買い上げて、壊して、銘柄ごとに比べて公表する仕組みがありません。 国民生活センターがヘルメットの商品テストをしているのは自転車用で、NASVAが評価しているのは自動車とチャイルドシートです。バイク用ヘルメットの銘柄別評価は、探しても見つかりませんでした。

SHARPが唯一の選択肢だというのは、そういう意味です。 好きで英国の制度を読んでいるのではありません。他に無いからです。

SHARPの星を判断材料にするときの限界も、書いておきます。英国の制度なので、試験されているのは英国で売られているヘルメットだけ。だから、気になっている機種が英国で売られていなければ、その衝撃保護性能をSHARP試験済みのヘルメットと比べるためのデータは、そもそもありません。

同じ規格でも保護性能は違う。SHARPはそれを実測している。

8「頭はいくらの価値か」を、まともな質問に作り直す

認証する側が、25年前に書いています

スネル財団の技術スタッフが2001年に書いた文書の一節です。

保護用ヘルメットの根本的な問題は、当時も今も、人々はそれを保護のために買うのに、その保護性能が事実上、目に見えないことである。 店に行けば、かぶり心地がよいか、十分に涼しく快適か、見えるか、聞こえるか、そして——これも同じくらい重要だが——それをかぶった自分に耐えられるか、を自分で判断できる。しかし、同一のヘルメットを何個か買って壊すだけの時間と設備と予算がない限り、そのヘルメットが第一の機能——事故で頭を守ること——を実際に果たすかどうかについては、誰かの言葉を信じるしかない。 そして他人の品質評価を受け入れることは、別の問いを生む。その人にとっての「十分」とは何か。そして、米国の規格の場合、いったい誰の言葉を信じているのか。

「いったい誰の言葉を信じているのか」

書いたのは、認証する側です。

この一節は、店で自分に確かめられるものと、確かめられないものを、きれいに分けてくれています。かぶり心地、涼しさ、視界、聴こえ方、似合うかどうか——ここは自分で判断できます。保護性能だけができません。 だから、誰かの言葉を信じるしかありません。

選べるのは、その言葉が本当に保護性能を示しているのかを、どう見分けるかです。

質問を作り直す

「高いヘルメットのほうが安全か」は、問いの立て方が間違っています。正しくはこうです。

「このヘルメットは、自分が納得できる水準で性能が試験・実証されているか。されているなら、他の選択肢と比べたこの価格差は、何に対して払っているのか。」

妥協してはいけないのは、3つだけです。 ここを削ると、保護性能そのものが削れます。

  1. 自分が納得できる、試験で実証された性能水準があること。 どの規格を床にするかは、あなたが決めます。日本で普通に買えばPSC/SGは付いてきます。それで足りるのか、回転まで試験されていてほしいのかは、別の問題です。
  2. 頭に合っていること。 合わないヘルメットは脱げます。価格の問題ではなく、個体差の問題です。3万円で合うものと10万円で合わないものなら、3万円のほうが安全です
  3. 注意力と判断力を損なわないこと。 重すぎて首が疲れないこと。視界が十分にあること。うるさすぎないこと。そして換気が十分であること。

同じ規格・同じフィット・同じ形状の2つに価格差があるとき、その差はたいてい、自分で確かめられるものです。素材、塗装・グラフィック・限定色、ブランドの格、部品(シールド・内装)の着脱のしやすさ、内装ウレタンのへたりにくさ、ピンロック等の曇り対策、インナーサンバイザー、インカムのスペースと専用マウント、シールドの着脱機構の滑らかさと半開の段数、ベンチレーションの効き、補修部品の入手性と供給年数(頻繁に使い、長く持つなら効きます)。

価値がない、という意味ではありません。快適性と利便性には、金を払う価値があり得ますし、2つ目・3つ目の条件と重なることもあります。ただ、それはヘルメット自体の衝撃保護性能とは別だ、というだけです。

確かめられないものが、ひとつだけ残ります。「当社基準は規格を上回る」。 価格差を安全の言葉で説明するとき、売り手が使うのは、これです。

その主張を証拠に変えるものは何か

これは主張です。では、その主張を証拠に変えるものは何でしょうか。 そのヘルメットが実際に規格より高い性能を持っていることは、十分にあり得ます。でも、試験の詳細が公開されていない限り、それを確かめる手段はありません。

判断材料になる独自試験とは、こういうものです。

  • どんな条件で(速度、アンビル形状、衝撃点、温度条件)
  • 何を測って(線形加速度、回転加速度、貫通量)
  • どの水準を合格としているか
  • そして、その水準が規格のどれをどう上回るのか

これらが公開されていれば、自分で評価できます。公開されていなければ、できません。

では、実際に各社は何を公表しているのか。見ていきましょう。

業界を横に並べると、ひとつのパターンが出てきます

主要メーカーの公式サイトとIR資料を当たった結果です。

メーカー 拠点 風洞は? 衝撃試験のプロトコルは公開?
SHOEI 日本 あり(自社) なし — 「年間3,000個以上を試験して壊している」(IR)。条件・水準の記載なし
Arai 日本 なし — 設計基準は公開、試験手順は非公開。認証試験自体は外部の独立試験機関に委託
OGK Kabuto 日本 あり(日本有数の風洞) なし — 「社内での厳しい衝撃吸収試験」。条件・水準の記載なし
AGV イタリア あり なし — 「独自の設計プロトコル」と称する。K6 Sだけは技術シートに数字を出す(36%/65%と、図に測定値が2つ)。方法は書かれておらず、36%が何に対する36%かも書かれていない
Shark フランス なし — 「卓越したクラッシュテスト結果」。数値なし
LS2 スペイン なし — 「国際的に最も厳しい試験基準を満たす、または上回る」。数値なし
HJC 韓国 あり(自社) なし — 「厳格な試験」以上の記述なし

7社。日本、イタリア、フランス、スペイン、韓国。風洞を持つ会社はそれを語ります。衝撃試験のプロトコルを公開している会社は、1社もありません。

これは偶然ではないと思います。構造的な理由があります。空力・ベンチレーション・静粛性の主張は、安全に言える主張です。 快適性の話であり、誰にも検証できず、外れても人は死なず、規制当局も見ていない。一方、衝撃試験のプロトコルは検証できます。そして検証できるものは、比較だけでなく、訴訟の可能性も招きます。

業界は風洞を見せて、落下試験機を見せません。 7社、同じ挙動、例外なし。

各社の言い分を、実際に仕分けてみる

抽象論では役に立たないので、実例で見ていきます。引用であって、推奨ではありません

Araiの「30%強い」と比べてみます。 Araiは試験の名前すら出しません。AGVは試験を名指しし、指標を名指しし、測定値を2つ出しています。衝撃試験の結果という一点では、7社のなかでAGVが最も多くを見せている会社です。 それでも、確かめられません。ここで言いたいのは、そこです。 最も多くを見せている会社の数字が、多くを見せているという理由では、確かめられるようにならない。

Arai — 同じページに、検証できるものと、できないものが同居している

Araiは珍しく、検証可能な設計基準を公開しています。

  • R75 — すべての帽体で、連続する曲面の半径を75mm以上とする。突起や鋭角を作らない。ノギスで測れます。反証できます。

そしてArai自身が、この基準の適用範囲も書いています。社内基準であって、試験ラインより下や、シールド取付部・ベンチレーション部には適用されない、と。自分の基準の限界を自分で書くのは、誠実な書き方です。

  • インナーサンバイザーを採用しない理由も公表しています。 内蔵レンズとその機構が入るはずだった前頭部と側頭部で、EPSの厚みを最大限確保するため。ベンチレーションも同じ論理で、シールド開口部の近くに穴を開けると、重要な部位で材料を削ることになる、と。ひとつの原則を、一貫して適用しています。

同じ会社が、同じサイトで、こうも書いています。「Super Fiberは通常のガラス繊維より30%強く、6倍高価である」

30%。何を測ってですか。 引張強度ですか、曲げ強度ですか。どのガラス繊維と比べてですか。試験方法も、規格も、出典もありません。方法のない数字は、数字のない主張より悪い。 測定の権威を借りながら、測定を提供していないからです。

同じ会社が、同じページで、両方をやっている。 だからこそAraiは、この記事にとって最良の教材です。悪役ではなく、主張を仕分ける練習台として。

SHOEI — 誰に話すかで、プレミアムの説明が変わる

SHOEIはIR資料で、ライダーではなく株主に向けて、こう書いています。SHOEIを所有することはライダーの誇りでありステータスシンボルである。この強いブランド力が、SHOEIプレミアムヘルメットの高い付加価値の証拠である。

ライダーに向けて語るとき、プレミアムは安全です。投資家に向けて語るとき、ブランド力が付加価値であり、所有はステータスシンボルです。

念のため書いておくと、これは嘘ではありません。両方とも本当です。 そして、それがまさに要点です。この節が言ってきたこと——価格差の一部はブランドの格に対して払われている——を、メーカー自身が株主に向けて説明しています。告発は不要です。両方の読者に向けた文章を、並べて置けば足ります。

ここまでは「各社が何を公開しているか」の話でした。公開の質だけで並べれば、Araiが頭ひとつ抜けています。

では、公開の質は、保護性能を予測するのでしょうか。

確かめる方法が、ひとつだけあります。 UK市場のモデルに限れば、SHARPが全社を同じ手順で試験しています。そしてSHARPは、ブランドごとに試験した機種数とその平均星数を公表しています。

2社を並べます。

メーカー 反証可能な設計基準を公開? スネル認証(後述の一覧) SHARPのブランド平均
Arai している(R75、Pro Shadeの理由) 本丸 — 現行M2025Dの49機種中33機種 3.7(21機種)
SHOEI していない(「年間3,000個」) あり — 現行M2025Dに6機種、M2025RにX-Fifteen 4.3(19機種)

Araiは、反証可能な設計基準を公開している唯一の会社であり、同時に「最も厳しい」と言われるスネル規格の本丸でもあります。現行のM2025Dの一覧に載っている49機種のうち、33機種がAraiです。3分の2です。独立した測定は、SHOEIをAraiの上に置きました。

だからこの節を、「Araiは公開しているから安全だ」と読まないでください。それはこの節の論理が禁じる読み方です。 公開は「確かめられる」という話であって、「優れている」という話ではありません。ここは、その二つが実際に一致しないことを、外部の測定が示している箇所です。

この数字が、正確には何を意味するか。 星の意味です——どの試験法も完全ではなく、点数が高いことは「その試験で良かった」であって、「あなたが実際に遭う事故で確実により守られる」ではありません。

で、結局どう見ればいいのか

3つに分けられます。

  1. 試験プロトコルを公開している → 評価できる → 該当なし
  2. 反証可能な設計基準を公開している → 部分的に検証できる → Araiの R75 と Pro Shadeの理由
  3. 検証できない「規格を上回る」系の主張 → 主張であって証拠ではない → AGVの「Extreme Safety」と看板の「36%/65%」、Araiの「30%強い」、SHOEIの「年間3,000個」、OGKの「厳しい試験」、HJCの「厳格な試験」、Sharkの「卓越したクラッシュテスト結果」、LS2の「国際的に最も厳しい基準を上回る」

7社中6社が3番に入り、2番に入るのはArai1社です。そして1番は空欄です。

いちばん大事な但し書きは、すでに測定が言いました(上)。ライダー向けの安全アピールの量から分かるのは、その会社の広報方針だけです。 Araiは設計思想をよく語り、SHOEIは年間3,000個を壊しているとIR資料に書く。これはマーケティングの差であって、エンジニアリングの差ではありません。

正直な結論はこうなります。各社の設計判断は実在し、一貫していて、部分的には検証できます。それが競合の別の判断より高い保護性能を生むかどうかは、分かりません。それを決める証拠が、存在しないからです。

つまり、メーカーの安全の主張は、候補を絞る材料になりません。 高いほうを選ぶ理由にも、安いほうを外す理由にもなりません。

9フィッティング — たぶん、この記事で最も重要なセクション

1 頭囲を測る 58 cm 眉のすぐ上と、後頭部のいちばん 出っ張った位置を通して一周する 傾きは頭の形によって変わる この長さが頭囲 2 被る位置を確かめる 帽体の縁 2cm 帽体の縁は、眉から指1〜2本 (およそ2cm)上に来る 深すぎても浅すぎても合わない ! 同じ58cmでも 58cm 丸い頭 58cm 前後に長い頭 頭囲が同じでも、合う ヘルメットは同じではない 頭囲は出発点にすぎない
頭囲は出発点。合うかどうかは、かぶって確かめるしかない。

ここまで規格の話を続けてきましたが、正直に言えば、ほとんどのライダーにとって、規格の選択よりフィットのほうが結果を左右します。

理由は単純です。日本のデータでは、二輪車乗車中の死者のうち、過去3年で25.4%のヘルメットが脱落しています。SHOEIも「サイズが合っていないヘルメットは、あご紐を締めていても脱落する可能性がある」と明言しています。

そしてこれは、メーカーの言い分だけではありません。 JARIのそり試験では、あご紐を正しく結束していても、頭に対して大きいヘルメットは30km/hで脱落しました(ハーフ型・オープンフェイス型)。引張実験でも、同じヘルメット・同じ条件で、頭が大きいほうが4.7倍の力に耐えています。サイズは、あご紐と同じ土俵の話です。

星5つのヘルメットも、頭から離れれば、ただの飾りの0つ星です。

頭囲を測る

眉の上、額のいちばん張り出した位置と、後頭部のいちばん出っ張った位置を通して、ぐるりと一周した長さ。これが頭囲です。横から見たとき、メジャーは水平とは限りません。 頭の形によっては、後ろに向かって下がります。メーカーの計測ガイドがそう描いているのは、そのためです。この数字に近い表記サイズから試着を始めます。

ただし、頭囲は出発点であって答えではありません。 同じ58cmでも、丸い頭と細長い頭では、合うヘルメットが違います。

試着で確認すること

SHOEIが公開しているチェックポイントは4つです。

  1. 頭頂部がヘルメット内側の上部にしっかり当たっていること
  2. チークパッドが頬に密着していること
  3. 額とヘルメットのあいだに、指が入るような隙間がないこと
  4. 両手で持って上下左右に揺らしても、ヘルメットが簡単に動かないこと

かぶる位置は、眉の上から指1〜2本、目安として2cmほど。

ひとつでも引っかかるなら、サイズかフィットが合っていません。JAFも「ちょうど良いとされるサイズのヘルメットは若干窮屈に感じられる」と書いています。新品のチークパッドは、きついくらいで正常で、目の下あたりで頬が軽く寄って持ち上がるくらいがちょうどよい状態です。

ここで、フィットが安全装備であることを示す、意外な証拠を一つ。Araiのアメリカ法人は、保証の適用条件として7項目を挙げていますが、その7番目が「使用者に正しくフィットしていること」です。 つまり、頭に合っていないAraiは、Araiの規定上そもそも保証対象外です。フィットは「快適さの好み」ではなく、メーカーが製品の前提条件として扱っているものだということです。

あご紐は必ず締めるところまで試してください。留め金を自分でちゃんと締められるかも確認します。眼鏡をかけている人は、ヘルメットが眼鏡に干渉しないか、締め付けで歪まないかも見ます。

強く当たる一点を探す

5分かぶって痛くないことと、5時間かぶって痛くないことは別です。試着では、局所的に強く当たっている一点を探してください。額の一点、こめかみ、後頭部。どこかで血流が止まるような、しびれるような感覚があってはいけません。候補が絞れたら、最終決定の前に、最低10分は被ってみることをおすすめします。「全体的にきつい」は正常。「一点だけ痛い、またはしびれる」は形が合っていません。

合っていないなら、「そのうち慣れる」「なじんでくる」と思い込まないでください。内装は多少なじみますが、帽体の内側形状は変わりません。

帽体サイズの数

ここは、実際に差が出るところです。

メーカーは、S〜XXLまでのサイズ展開を、何種類の帽体で作っているか。極端な話、1つの帽体で全サイズをカバーすれば、コストは下がります。内装の厚みだけでサイズを変えることになります。

その場合どうなるか。大きいサイズの人には内装が薄くなり(=EPSまでの距離が短い)、小さいサイズの人には過剰に分厚い内装の、無駄に大きく重いヘルメットになります。 帽体サイズが多いほど、どのサイズの人も適切な帽体・適切なEPS厚み・適切な外形で被れます。

これは価格差の正当な理由のひとつです。そしてこれは、調べれば分かります。 帽体サイズ数は、メーカーの製品ページにも販売店の商品ページにも、たいてい書いてあります。SHOEIのZ-8なら「帽体サイズはS、M、L、XLで独立した4サイズの展開」。比べたければ、比べられます。

もっと踏み込んだことを、SHOEIは自分のFAQに書いています。

ヘルメットは、すべてのサイズに専用のシェル(帽体)や衝撃吸収ライナーが用意されているわけではありません。 例を挙げるとMULTITECであれば、シェルはM、L、XLの3サイズで、さらにそれに組み込む衝撃吸収ライナーは、XS、M、L、XLの4サイズがあります。MULTITECは全6サイズのラインナップで、SサイズとXXLサイズは内装のパッド(センターパッド)の厚さのみでサイズをつくり出していることになります。

カタログに6サイズと書いてあっても、帽体は3種類、ライナーは4種類。 残りの2サイズは、パッドの厚みで作られています。

つまり、あなたのサイズが「パッドで作られたサイズ」に当たっている可能性があります。

そして「パッドで作られたサイズ」には、そのぶんの弱点があります。パッドがへたるにつれて、ヘルメットは実質的に1〜2サイズ大きくなる。大きくなりすぎたヘルメットは、脱げます。

要は、フィットは快適性であり、同時に保護性能だということです。 帽体サイズ数はそれを読む手がかりの一つですが、一つでしかありません——帽体が多いほうが自分に合う、という意味ではありません。合うかどうかは、被ってみるまで分かりません。より大切なのは、ある帽体のサイズ範囲の中で、自分のサイズができるだけ上限に近いことです。そうすれば、必要最小限のウレタン内装で済みます。パッドがへたったときの緩みの余地が小さく、EPS内で頭が動く余地も小さくなります。

日本人の頭型

「日本人の頭は丸い」——ヘルメットの話では、これがくり返し語られます。その主張の一次データは、どうしても見つけられませんでした。 産総研は日本人317名の頭長・頭幅を実測して公開していますが、測ったのは日本人だけです。「欧米に比べて」の比較相手が、そもそも入っていない。

代わりに、確認できた事実を一つ。Araiは、市場ごとに内装を作り分けています——同社のFAQがそう明言しています(次項)。頭の人種差の証明ではありません。メーカーが作り分けているという事実が確定するだけです。

そして、ここが肝心です。「アジアンフィット」は、あなたの頭についての約束ではありません。

作り分けは製品の区分であって、あなたの頭の診断ではありません。 日本人の頭が全員同じ形をしているわけではないのは、全員が同じサイズではないのと同じです。丸い人もいれば、前後に長い人もいる。「アジア人だから丸いはずだ」も、「日本人向けだから合うはずだ」も、あなた個人については何も保証しません。

必要なのは「アジアンフィット」でも「欧米仕様」でもなく、あなたの頭に合うヘルメットです。 測って、被って、確かめる。それ以外にありません。

実際に効いてくるのは、一つ。メーカーは同じモデルでも市場ごとに複数の仕様を作っていることが多く、その見分け方は一定ではありません。 市場ごとに別の商品名を付けている例もあれば、複数の市場で同じ商品名のまま仕様だけが違う例もあります。同じメーカーの中でも一定ではありません。名前が違うから別のヘルメットだとも、名前が同じだから同じ製品だとも言えません。 どの市場向けに作られた個体かを示すのは、名前ではなく認証ラベル——PSC・SG/ECE/DOT・SNELL——です。

そして、外から見て同じでも、中まで同じとは限りません。 同じブランド・同じ名前のヘルメットでも、海外から買った個体は、内装の形も、貼られている認証ラベルも、そのラベルが要求する試験に合わせた中身の作りも、国内で売られている個体と同じとは限りません。つまり、国内で売られている同じ名前のヘルメットが試着で合っていたとしても、海外から買った個体も合うとは限りません。 そして合わないヘルメットは、規格が何であれ危険です。

「同じ名前」は、同じヘルメットとは限らない

そしてこれは、フィットだけの問題ではありません。メーカー自身が、市場ごとに別製品として扱っています。

Araiのアメリカ法人は公式に、こう明記しています。米国・カナダ市場向けに設計・製造・販売されたヘルメットの部品しか在庫していないため、それ以外の市場のヘルメットの部品は供給できない。さらに、米国・カナダ市場外のヘルメットは米国DOTの要件に合わせて設計も認証もされていないため、有償・保証を問わず一切のサービスを提供できない。DOT非適合ヘルメットの継続使用をAraiは是認できないから、と。

そして——ここが決定的なのですが——Araiの日本法人も、反対方向から同じことを言っています。

Arai日本のFAQより:

海外向け製品は、日本国内の「二輪乗車用ヘルメット」を示す〈PSC・SGマーク〉が貼られていません。〈PSC・SGマーク〉のない製品の販売・陳列は、日本国内では消費生活用製品安全法特定製品の指定により禁止されていますので購入する事はできません。また、海外向け製品と日本国内向け製品とでは、ヘルメット本体の内装形状が全く異なりますので、海外向け製品を日本国内で使用されないようお願いいたします。

「内装形状が全く異なります」。 「多少違う」ではありません。全く異なる、です。

そして同社の取扱説明書には、その裏返しが書かれています。

本製品は日本国内仕様です、国外では使用しないでください。尚、他国には各々の国で必要となる法律、規格等が定められており日本国内仕様である本製品は適合していません。

つまり——Arai Americasは日本仕様のAraiに触れず、Arai日本は日本仕様のAraiを海外で使うなと言い、海外仕様を日本で使うなとも言っています。 同じ会社の両方の法人が、それぞれ独立に、同じことを述べています。

読み替えるとこうです。同じブランド、同じモデル名でも、市場が違えば、メーカーが手を触れず、補修部品も持たず、そもそも中の形が違う程度には、別の製品です。

ここから2つの実務的な帰結が出ます。

  1. 並行輸入品は、補修部品も点検も期待できない可能性がある。 補修部品の入手性は価格差が買うものの一つですが、並行輸入ではそれがゼロになり得ます。
  2. 海外の評価を、そのまま日本市場のモデルに当てはめられない。 SHARPが評価しているのは英国市場のヘルメットです——SHARP自身、試験する個体は英国の小売・代理店から購入し、メーカーから無償提供を受けた場合も英国の消費者が買える経路で1個以上を独自に購入して結果を検証する、と公表しています。メーカー自身が市場ごとに別物として扱っているなら、私たちもそう扱うべきです。

この「市場ごとに別製品」がどこまで及ぶのか——ブランドごとの名前の付け方、海外通販で失う補修部品・点検・保証、そして法律上の位置——は、並行輸入ヘルメットの記事に分けて書きました。

フィッティングサービス

そして、これは一人で背負い込まなくて済みます。

多くの販売店が、パーソナルフィッティング——頭を計測し、内装やパッドを一人ひとりに合わせて調整するサービス——を提供しています。メーカー側が販売店向けの講習制度を持っていることもあり、大手のバイク用品店から地元の小さなショップまで、対応している店は珍しくありません。

何のためにやるのか。 この節がここまで書いてきたことの、答えそのものです。既製品のヘルメットは、あなたの頭のために作られていません。サイズ表は目安であって、あなたの頭の形と大きさに合っているかどうかは、被ってみるまで——そして測ってみるまで——分かりません。 計測して、内装を足したり削いだりして、できるかぎり近づける。 それがフィッティングです。

そして、「快適さのために調整してもらう」ことと「守られるために調整してもらう」ことは、同じ作業です合わないヘルメットは、不快だし、脱げます。

どうすればいいか。地元の店に行って聞いてください。 どんなフィッティングサービスがあるのか、対象は何か、費用はいくらか——これは店によって、メーカーによって、時期によって変わります。すでにフィットを確認済みの、まったく同じヘルメット・まったく同じパッドを買い直すのでない限り、通販で買うより、地元の店で計測・フィッティングしてもらうために少し多く払う価値があります。

どうしても通販で買うしかない場合は、返品・交換の条件をよく確認してください。 通販業者によって、返品ポリシーの寛容さはかなり違います。タグやステッカーを外す前にフィットを確認し、販売者の返品・交換の条件に必ず従ってください。

10あご紐 — 統計上、最も多く失敗している装備

ダブルDリングのあご紐を締める手元
統計上いちばん失敗しているのが、この装備。

警視庁が2025年7〜8月に3,344人のライダーに聞き取り調査をした結果です。

あご紐が「ゆるく結束」または「結束なし」だった人:22.9%(前回調査より2.7ポイント減少)

形状別に見ると、格差が露骨です。

形状 不適正着用の割合
フルフェイス型 10.6%
ジェット型 23.4%
半キャップ型 34.3%

半キャップの3人に1人が、事実上ヘルメットを頭に載せているだけです。そして2025年の調査では、半キャップ型が増加し、フルフェイス型が減少しています。

結果として、過去3年の二輪車乗車中死者のうち25.4%でヘルメットが脱落しています。

脱げたヘルメットは、頭を守りません。 当たり前のようですが、それを実証した実験があります。

81回ぶつけて、30回脱げました

2023年度、JAMAの二輪車委員会が日本自動車研究所(JARI)で実験をしました。警察庁と国土交通省とITARDAがオブザーバーに入り、日本大学理工学部の関根太郎教授が有識者として参加しています。報告書は2024年3月に公開されています。

やったことは単純です。ヘルメットをかぶせたダミーの頭と首を台車に固定して、ぶつける。 速度は10・20・30km/h。ヘルメットはハーフ型・オープンフェイス型・フルフェイス型。あご紐は「適正」「緩い(顎との間に40mmの隙間)」「未結束」の3通り。ヘルメット着用の実験81回のうち、30回で脱落しました。

条件 結果
サイズが合っている+あご紐を適正に結束 全タイプで脱落なし
サイズは適正、あご紐が緩い ハーフ型が脱落
サイズは適正、あご紐が未結束 全タイプが脱落
サイズが不適正、あご紐は適正に結束 30km/hでハーフ型とオープンフェイス型が脱落

1行目が、この記事のいちばん実用的な行です。 サイズが合っていて、あご紐を正しく締めていれば、この実験の範囲では、どのヘルメットも脱げませんでした。

そして4行目。あご紐を正しく締めていても、サイズが合っていなければ、30km/hで脱げています。

「脱落なし」の中身

報告書には、もっと嫌なことが書いてあります。

前突20km/h・あご紐未結束で「脱落なし」と判定された実験でも、衝突中、鼻または額が露出するほどヘルメットがずれていました。 頭のほうがヘルメットより大きく前傾し、そのあとリバウンドで元の位置に戻る。だから記録上は「脱落なし」です。

衝突の瞬間、あなたの額はヘルメットの外に出ています。そして戻ってきます。 統計は、これを「脱落なし」と数えます。

ハーフキャップの数字

あご紐を締めていない状態で、ヘルメットを頭から引き抜くのに必要な力です(標準ダミー・鉛直方向)。

ヘルメット 引張荷重
ハーフ型 10.2 N
オープンフェイス型 63.0 N
フルフェイス型 441.2 N

そのハーフ型の重量は、0.68kg。重力でかかる力は約6.7ニュートンです。

報告書の表現をそのまま引きます。「HA形ではダミーに関係なく、どの方向に引っ張った場合でも発生する荷重は小さく、ほぼヘルメットの重量と同等であった」。

あご紐を締めていないハーフキャップを頭から外すのに要る力は、そのヘルメットを持ち上げるのに要る力と、ほぼ同じです。

サイズについても数字が出ています。同じフルフェイス、同じ条件で、標準ダミーの引張荷重は小柄ダミーの4.7倍でした。 違うのは、頭の大きさだけです。

そしてフルフェイスについて、報告書はこう書いています。斜め前方に引っ張った試験では、チンガードが首に当たって動きが止まり、脱落しないまま試験を終了した。 フルフェイスの顎の前にあるものは、脱落に対しても効いています。

この実験の限界

この実験はダミーの頭と首だけで、体はありません。実車の衝突実験ではなく、ばらつきを減らすために単純化した装置です。報告書自身がそう書いています。

さらに、ハーフ型を小柄ダミーにかぶせる条件では、そのままでは台車が加速するだけでずれてしまうため、側頭部にウレタンパッドを詰めて実験しています。 この条件のハーフ型は、実験のために助けてもらっています。

そして報告書は、こう締めています。今回より高い速度域、転倒による衝撃、回転による遠心力による脱落は、まだ検証されていない。

SHOEIの品質管理部門は、事故後のヘルメットの状態から判断すると、あご紐が緩かった、締められていなかった、あるいは装着方法自体を誤っていたと考えられるケースが多く見受けられる、と述べています。

ラチェット式という選択肢

システムヘルメット等に採用されているマイクロ・ラチェットシステムは、誤装着の余地が少ないという利点があります。Dリングの折り返しを毎回正しくやる自信がない、冬にグローブをしたまま操作したい。そういう人には、理にかなった選択です。

Dリングのほうが軽く、部品が少なく、レースでは規定されることが多い。ラチェットのほうが操作が速く、間違えにくい。どちらが正しいという話ではありませんが、「毎回正しく締められる方式」が、あなたにとって正しい方式です。

ロールオフ試験

JISにも、SGにも、ECEにも、保持性(ロールオフ)試験があります。

規格はこれを見ています。でも、その試験は正しいサイズで、正しく締めた状態を前提にしています。あなたが緩く締めていれば、規格が何を保証していようと関係ありません。

留めていないハーフキャップを頭から外すのに必要な力は、それを持ち上げるのに必要な力とほぼ同じ。

11ヘルメットの形状 — あなたは、どう打たれるか選べません

フルフェイス・ジェット・システム・ハーフの4タイプ
同じJIS 2種でも、守る“面積”は同じではない。

SHOEIの見解は、こうです。「同一の安全規格を取得しているヘルメットであれば、規格で求められる安全性能に差はない。使用目的と用途で選ぶのがよい」。

正確な言い方です。 そして、よく読んでください。「規格で求められる安全性能に差はない」と言っています。「実際に守る範囲が同じ」とは言っていません。

規格の話と、覆っている面積の話は、別の話です。

あなたが選べないもの

転倒の瞬間に、あなたが決められることは何もありません。バイクがどちらに倒れるか。体がどう回るか。頭が路面のどこに、どの角度で、何に当たるか。前から来るのか、横から来るのか。ガードレールの支柱か、縁石か、対向車のバンパーか。

路面を滑り、側面とあごガードが大きく削れたフルフェイスヘルメット
削れたのは側面と、あごガード。どこから当たり、どこで滑るかは、転んだあとに決まる。

一つも選べません。

選べるのは、その瞬間より前に、何をかぶるかだけです。

顎に何かが当たったとき

規格の側から見ると、こうなります。

DOT(FMVSS 218)には、チンバーの衝撃試験がありません。

つまり、DOTのみの認証を受けたフルフェイスは、顎の部分については何も認証されていません。 顎の前にあるものが、試験されずにそこにあります。

そしてNHTSA側の研究者は、これを問題として認識しています。「Modernization of the DOT Motorcycle Helmet Standard」は、チンバーの性能試験を開発すべきだと勧告しています。勧告されたのは20年以上前です。まだありません。

一方、ECE、JIS 2種、SNELLにはチンガードの試験があります。

そして構造の側から見ると——研究者のMillsらは、チンバーの内部にもエネルギーを吸収する硬質フォームが入っており、前方からの衝撃ではそのフォームが実際に機能して顔を保護しているとしています。覆いが少ないヘルメットは、その保護がありません。

実際の事故ではどうか。オーストラリアの二輪車事故の詳細調査(88件)では、ジェットヘルメットの装着者は、フルフェイス装着者と比べて、顔面・歯牙の骨折を負った割合が統計的に有意に高いという結果が出ています(p=0.007)。表面的な頭部外傷も同様です(p=0.009)。

「顎に当たることがある」ではありません。当たった人がいて、数えられています。

数えたのは、COST 327です。

ハノーファー・ミュンヘン・グラスゴーで1996年から2年間、実際の事故で使われたヘルメットの損傷を1件ずつ記録した結果、728件の損傷のうち、顎ガードが16%(115件)、シールドが5.8%(42件)。 最終報告書の集計(788件)では、顎ガードは15.4%です。

割合の大きさより、中身のほうが大事です。損傷の種類別に見ると、最も「割れて」いたのは顎ガードと、シールドの取り付け部でした。 擦り傷ではなく、割れ。報告書はこう結論しています——シールド周りは構造的にやや弱いのだろうし、顎ガードへの衝撃は特に激しいのだろう、と。

文献レビューには、もっと直接的な記述があります。頭蓋骨骨折の3分の2以上が、顎への衝撃を伴っている。 そして頭蓋底骨折は「ほぼ常に、顎ガードを通して顔面骨へ、そこからさらに頭蓋底へと伝わる直接衝撃によって生じる」。

規格は、あなたが当たる場所の40%しか見ていませんでした

規格が試験しているのは、規格が試験すると決めた場所です。あなたが当たる場所ではありません。 これから先、どの規格の名前を聞いても、まずこれを訊いてください——その規格は、どこを試験していますか。

同じデータから、もうひとつ出ています。

当時の規格(ECE R22-04)が試験していた4か所——前頭・側頭・後頭・頭頂——に、実際の事故の衝撃が当たった割合は40%でした。 内訳は前頭11%、側頭25%、後頭8%、頭頂1%。残りの60%は、規格が見ていない場所に当たっています。

ただし、公平に書きます。衝撃の強さについては、この規格はよくできていました。 位置を無視して強さだけで比べると、実際の衝撃の90%は試験線より下に収まっており(その90%の致死率は31%)、試験線を超えた10%は、例外なく死亡していました。 この規格が守れる範囲は、「守れば助かるかもしれない衝撃」とほぼ一致していたわけです。エネルギーの設定は、妥当だった。

間違っていたのは、どこを見るか、でした。

研究者たちの結論は「試験位置を、顎部を考慮したものに修正する必要がある」。ECEはその後、22-05で顎ガードの試験を追加しました。DOTは、いまも追加していません。

で、これは何の話なのか

ジェットやハーフキャップを選ぶ理由は、たくさんあります。そしてその多くは、正当です。

暑い。着脱が楽。眼鏡がかけやすい。視界が広い。軽い。そして——正直に言えば——そのバイクに似合う。 クラシックやアメリカンに、レーシングフルフェイスは合わないことがある。ジャケットとブーツを揃えた全体像の中で、ヘルメットだけ浮く。それは実在する理由です。

この記事は、それを馬鹿にしません。 バイクに乗る動機の中に「かっこいい」が入っているのは、当たり前のことです。それがなければ、バイクに乗る人はずっと少ないはずです。

ただ、正直に並べておきたい質問があります。

あなたが転んだとき、顎から、全力で突っ込まない自信はどれくらいありますか。

その確率を、あなたはどう見積もっていますか。そして、その見積もりの根拠は何ですか。

「似合うから」と引き換えに引き受けているリスクは、どれくらいの大きさだと思っていますか。

そして、いちばん答えにくい質問。

もし保護性能が見た目の次に来るなら、そのヘルメットは安全装備なのでしょうか。それとも、ファッションアイテムなのでしょうか。

これは脅しではありません。見下してもいません。これらは、あなたが自分に対して正直に答えるべき質問だ、というだけです。

ジェットを選ぶこと自体は、間違いではありません。間違いなのは、「規格に通っているから同じだろう」と思って選ぶことです。 それは選択というより、知らないだけです。

トレードオフを、トレードオフとして選んでください。 ジェットとフルフェイスが「同じJIS 2種に通っている」ことと、「顎に何かが当たったとき同じ結果になる」ことは、まったく別の話です。JIS 2種はジェット形もフルフェース形も含みますが、それは同じ試験に通ったという意味であって、同じ範囲を守るという意味ではありません。

これを知ったうえで「それでもジェットがいい」と決めるなら、それは完全に、あなたの権利です。 この記事に、それを否定する根拠はありません。

システム(フリップアップ)

システムヘルメットの顎は、開きます。そして——その開きやすさは、星に入っていません。 SHARPはラッチ率を測って公表していながら、星の評価には含めていないと自分で書いています。ECE 22.06が開状態でのロールオフと開・閉両方の状態での衝撃試験を要求するようになったのも、規制側が「開いた状態で事故に遭う」ことを想定し始めたからです。

システムを選ぶなら、SHARPの星の評価だけを見るのではなく、ラッチの数字も見てください。 それは別に載っています。

ECEには「顎を守らないチンガード」という区分があります

ここは、この節でいちばん重要かもしれません。

ECEはヘルメットを4つに分類し、ラベルに1文字で表示させています。

表記 意味
J 顔の下部を覆う部分がない。オープンフェイス
P 顔の下部を覆う部分があり、顎を保護することを意図している。チンガードが保護構造として試験・認証済み
P/J システム(モジュラー)。開・閉の両方の状態で要求を満たしている。 ただし顎の保護が保証されるのは、チンガードを閉じた位置にしたときだけ。 保持装置の試験はJとPの両方の構成で実施
NP 顔の下部を覆う部分があるが、顎を保護しない。 そして——「このヘルメットは顎を保護しない」という警告の表示が義務づけられている

NPを、もう一度読んでください。

顎の前に何かが付いているのに、それは顎を守りません。 そしてECEは、それを黙って売ることを許さず、警告の表示を義務づけています。

つまり、チンガードの形をした、チンガードではないものが、この世に存在します。ECEはそれに名前をつけ、区分を作り、警告を義務づけました。規制当局がそこまでするということは、そういう製品が実際にある、ということです。

そしてP/Jの定義も、よく読んでください。「顎の保護が保証されるのは、チンガードを閉じた位置にしたときだけ」。 信号待ちで開けたまま発進して、そのまま忘れる——あの状態は、Jです。

そして、これは日本の基準も同じことを言っています。SG基準は、フリップアップヘルメットの取扱説明書に、次の趣旨を明示することを義務づけています。

フリップアップヘルメット(フルフェイスであって跳ね上げ式の開閉式あごガードを装備したヘルメット)については、あごガードを上げたままで走行するのは危険である旨

そしてこれは、任意制度であるSGだけの話ではありません。PSCの技術基準も、同じ表示を求めています(経済産業省・解釈通達 別表2)。任意の制度と、それがなければ日本で売ることすらできない制度が、同じことを警告しています。

「危険である」。 製品安全協会が、そう書けと言っています。ECEはP/Jという区分で、SGは取扱説明書で、PSCは技術基準で、同じことを別の方法で言っています。

オフロード/アドベンチャー

長いバイザーとチンガードは、林道での飛び石と枝に効きます。でも高速道路では、バイザーが風を拾って首に負担がかかります。ゴーグル前提の設計だと、シールドがないぶん風切り音も違います。

あなたが実際にどこを走るかで決まります。 年に1回の林道のために、残り364日を首の疲労と引き換えにするかどうか。それはあなたの計算です。

12ヘルメットの役割は、ここまでです

プロテクター付き装備と、Tシャツ+ジーンズの比較
時速30kmで転べば、路面は粗いサンドペーパー。守るのは頭だけではない。

できること

頭を守ること。頭部の傷害を軽くすること。それだけです。

小さなことではありません。吸収性能が上がれば助かる人は実際に増えます。ただ、それが全部です。

そして、その「頭を守る」にも、上限があります。スネルのラベルには、伝統的にこう書かれています。「合理的に予見できる衝撃の中に、このヘルメットの保護能力を超えるものがあり得る」。 そして日本のSG基準は、取扱説明書に「ヘルメットは頭部への衝撃を軽減するものであって、すべての衝撃から守ることができない旨」を明示するよう義務づけています。

ヘルメットにできることには上限がある——これは、単なる主張ではありません。認証する側が、自分で言っています。

できないこと

首。 どの規格も扱わず、ヘルメットにできることも何もありません。むしろ、頭に重いものを載せている以上、慣性を考えれば首には不利に働き得ます。重いヘルメットほど、その傾向は強くなります。

頸椎損傷は、生き延びたうえで人生が変わる類の怪我です。ヘルメットにできることは何もありません。

首から下のすべて。 胸、腹、背中、骨盤、腕、脚、手、足。これらすべてに対して、ヘルメットは一切、何もしません。

数字

2025年、都内の二輪車(原付を含む)乗車中の死者は35人。致命傷となった部位は、頭部が54.3%で最多でした。ただし前年の2024年は、胸部が最多で、頭部を上回っています。 過去5年平均では、頭部43.2%、胸部29.2%(警視庁)。

順位は、年によって入れ替わります。母数が、その程度の大きさなので。どちらが1位かは、どうでもいいことです。頭と胸は、二大部位であり続けています。

そして着用率は、ヘルメットがほぼ100%に対し、胸部プロテクターは9.9%。前年から0.1ポイント増。10人に1人です(警視庁が2025年7〜8月に都内で行った街頭の聞き取り調査、3,344人)。

四輪と違い、二輪にはクラッシャブルゾーンもエアバッグもシートベルトもありません。ライダー自身が構造材です。

ディスクグラインダーの話

30km/hで転んだとして、体は路面の上を滑ります。アスファルトは、粗さで言えば粗いヤスリです。そこに体重がかかった状態で、皮膚が擦れる。

Tシャツは1秒もちません。デニムも、バイク用でなければ、もって数秒です。皮膚が削れ、脂肪層が削れ、その下が出てきます。

基準は、これでいいと思います。今日着ているもので、胴・腕・脚・手・足にディスクグラインダーを当てられますか。 当てられないなら、その服装は30km/hの転倒に対応していません。

きちんとしたヘルメットを正しく被っていれば、この種の事故で命を落とすことは、まずありません。生き残ります。 そして、その後の人生を、「別のものを着ていれば」と思いながら生きます。そちらのほうが死ぬより辛い、という人もいます。

予算の話

10万円のヘルメットと、Tシャツと、ジーンズ。この組み合わせが何をするかというと、見た目はかっこよく、あなたの頭を守って、その後の人生を、あまりかっこよくない姿で生きさせてくれます。

ヘルメットの予算が、体を守る予算を削ってはいけません。

3万円のヘルメット——最低条件をすべて満たしたもの——を選んで、残りを体に回す。これは、10万円のヘルメット単体より、確実に優れた10万円の使い方です。 カーボンの軽さも、インナーサンバイザーも、限定カラーも、いいものです。ただしそれは、胸と背中と手足が守られたあとの話です。

ヘルメット予算が、身体の予算を食ってはいけません。

13静けさと重量 — 快適性ではなく、安全の話

この2つは「快適性」の欄に入れられがちなので、章を分けます。

まず、数字を見てください

オランダの二輪誌Promotorが、価格帯の異なる10種類のフルフェイス/システムヘルメットを、50・100・150km/hで測定しました。結果はこうです。

  • 最も静かだったヘルメット:50km/hで85dB、100km/hで100dB
  • 最も遮音性が低かったヘルメット:50km/hで92dB、100km/hで106dB

いちばん静かなヘルメットで、100km/hのとき100dBです。

そしてHarley-Davidsonが自社サイトで公開している数字(メーカーがこれを書いているという点も含めて興味深いのですが)。

速度 風切り音 聴覚に障害が生じるまで
50mph(約80km/h) 92.7dB 26分未満
60mph(約97km/h) 97.9dB 8分

高速道路を8分走れば、永久的な聴覚障害のリスク圏です。

聴覚に障害が生じ得る水準は、一般に85dB(米国基準)、EUでは80dBとされます。80dBなら1日8時間まで安全に過ごせる、という水準です。100dBは、80dBの約100倍の音響エネルギーです。

ヘルメットは、この問題をほぼ解決していません

いちばん静かなヘルメットと、いちばんうるさいヘルメットの差は、上の測定で6〜7dBです。

これが、業界中の風洞が生んでいる差の全部です。

ほぼすべての主要メーカーが風洞を持ち、ほぼ全社がそれを語り、衝撃試験のプロトコルは1社も公開していません。その風洞が騒音について稼いでいるのが、100dBの問題に対して6〜7dBです。

ゼロではありません。まったく足りていません。

なお、英バース大学らの研究では、マネキンにヘルメットを被せて風洞に入れ、耳元と帽体周囲にマイクを置いて測定した結果、ヘルメットの下側、チンバー付近が、鼓膜に届く騒音の主要な発生源であることが分かっています。音は下から入ってきます。チンカーテンに意味があるのはそのためです。

なぜこれが「安全」なのか

持続的な騒音は疲労を生み、疲労は判断を鈍らせ、判断の遅れは事故になります。「静かであること」を、3つの最低条件の一つに入れたのは、この理由です。

そして長い目で見れば、単純に、耳が壊れます。騒音性難聴は、元には戻りません。

耳栓は、アクセサリーではありません

フィルター付きの二輪用耳栓と、路面に置かれたグローブ
風切り音を下げる、現実的にほぼ唯一の手段。ヘルメット側の努力では、ここは解決していない。

ここまでの数字を素直に読めば、結論は一つです。ヘルメット側の努力では、永久的な難聴は解決していません。耳栓が、実際にこの問題に対処する唯一の手段です。

そして、いちばん多い誤解を先に潰します。

「耳栓をすると周りの音が聞こえなくなって危ない」——逆です。

理由はこうです。その100dBの風切り音こそが、他のすべてを覆い隠しているマスクです。 全帯域にわたるノイズが、サイレンも、クラクションも、他人の声も、その下に埋めています。

耳栓は、騒音も信号も同じように下げます。サイレンだけを選んで通すわけではありません。でも全体の音量が下がることで、耳は歪みの少ない領域に戻り、大きな低音が上の帯域まで覆い隠す範囲も狭まります。

約80〜85dBを超える騒音下では、聴覚保護具を着けても聞き取りは下がらず、わずかに改善することさえある——聴力が正常な人については、複数の研究がそう報告しています。100km/hのヘルメットの中は、その水準をはるかに超えています。

耳栓をしていないライダーは、多くの音を聞いているのではありません。100dBのノイズを聞いていて、必要な音はその中に埋まっています。

おまけの効果として、疲労が減るという報告も繰り返し出ています。これは上の「騒音は安全の話」に、そのままつながります。

ただし、フォームと「フィルター付き」は別物です

ここは、正確に書いておきます。

バイクの風切り音は、主に低周波です(おおむね100〜500Hz)。 帽体まわりの乱流が生む音です。

減衰カーブの形 バイクでどうなるか
一般的なフォーム耳栓 高域に向かって急に立ち上がる 低域もよく落とすが、サイレンや声に必要な高域を、それ以上に大きく削ってしまう
フィルター付き(バイク用)耳栓 比較的平坦に近い 全体を下げつつ、会話・サイレン・インカムの帯域を余計に削る量が小さい

フォーム耳栓が「閉じ込められた感じ」になるのは、これが理由です。聞きたい高域を、風切り音のいる低域よりも大きく削っているからです。 何もしないよりはるかにマシですが、削り方の配分が向いていません。

ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。低域だけを狙って落とす耳栓は、実測値の上には存在しません。 低い音は波長が長く、耳栓の周囲や骨を伝って回り込むため、小さな受動部品で低域だけを選んで落とすことは物理的に難しい。フィルターにできるのは、カーブを平らに近づけることであって、逆さにすることではありません。

そして、ヘルメット自体がすでに高域を削っています

ここに、メーカー自身の説明が加わります。Araiは取扱説明書で、ヘルメットをかぶると音が聞こえにくくなる理由を、こう書いています。

ヘルメットの基本構造は頭を何らかの物質と空間で覆い、頭を保護するものです。安全性を高める為には、より多くの物質、空間が必要となり、したがって安全性の代償として僅かとはいえ視界・聴力・運動性が損なわれる可能性があります。例えば、ヘルメットをかぶると音が聞こえにくく感じる例があげられます。これは周波数の高い音がクッション材などによって吸収されるためです。

ヘルメットの内装は、すでに高い周波数の音を吸収しています。

積み上げると、こうなります。

  1. ヘルメットが高域を吸収する — サイレン、声、あなたが聞く必要のあるもの
  2. 残るのは低周波の風切り音 — あなたの耳を壊すもの
  3. 耳栓が、さらに高域を削る — カーブが急なフォームほど、その削り方は大きい

必要な音は二重に削られ、耳を壊す低域は、そのどちらも比較的すり抜けてきます。 これが、フォーム耳栓をしたライダーの音響環境です。

バイク用のフィルター付き耳栓が狙っているのは、この3番目の削り方を穏やかにすることです。全体を下げながら、高域(サイレン・会話)を余計に削らない。 ヘルメットがすでに高域を削っているぶん、そこをさらに削らないことには意味があります。

「耳栓をすると聞こえなくなる」という体験談の多くは、フォーム耳栓の話だと思って読んでください。

なお、「風切り音は高周波だ」と書いている情報源もありますが、これは誤りです。 もしそう読んだことがあるなら、忘れてください。乱流が生む音は低周波です。

法規:規制されているのは「装置」ではなく「状態」です

日本では、イヤホン等の規制は都道府県の公安委員会規則で定められています。全国一律ではありません。ここでは愛知県を例に、条文そのものを読みます。

愛知県道路交通法施行細則 第七条第四号(令和8年3月27日施行):

大きな音量で、カーラジオ等を聞き、又はイヤホン等を使用して音楽等を聞くなど安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令等を受信する場合は、この限りでない。

条文を丁寧に読んでください。

禁じられているのは「状態」であって、「装置」ではありません。

  • 禁止されているのは:安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で運転すること
  • カーラジオやイヤホンは:その状態に陥るです。「〜など」という書き方に注目してください

そして条文に「耳栓」という語は出てきません。

つまり愛知県の細則が問うているのは、「耳に何か入れているか」ではなく、「必要な音が聞こえているか」です。

ここで、上の音響の話と突き合わせてみてください。100km/hで98〜100dBの風切り音の中を、耳栓なしで走っているライダーと、フィルター付き耳栓で必要な音が聞こえているライダー。条文が問うている「状態」において、どちらが危ういかは、考えてみる価値があります。

詳しく:警察庁の通達原文と、その射程(法的な補足・読み飛ばし可)

「規制されているのは装置ではなく状態だ」——これはこの記事の解釈ではありません。警察庁が通達に書いています。

警察庁交通局「イヤホン又はヘッドホンを使用した自転車利用者に対する交通指導取締り上の留意事項等について」(令和5年7月25日、丁交指発第86号・丁交企発第187号):

法第71条第6号の委任を受け、公安委員会規則において定めている規定の趣旨は、…イヤホン等の使用そのものを禁止することではなく、イヤホン等を使用して安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で…運転する行為を禁止することであると承知している。

そして、取締りの現場に対してこう指示しています。

イヤホン等の使用という外形的事実のみに着目して画一的に違反の成否を判断するのではなく、例えば、警察官が声掛けをした際の運転者の反応を確認したり、運転者にイヤホン等の提示を求め、その形状や音量等から、これを使用して…運転する場合に周囲の音又は声が聞こえない状態となるかどうかを確認したりすることにより、個別具体の事実関係に即して違反の成否を判断すること。

「外形的事実のみに着目して画一的に判断するな」。 装置を着けているという事実だけで違反にするな、という指示です。片耳か両耳かについても「使用形態にかかわらず」と明記されています。

規定の趣旨の周知徹底に当たって支障があり…必要性が認められる場合には、規定からイヤホン等を例示する文言を削除することも含めて、所要の見直しを検討すること。

警察庁は、条文から「イヤホン等」という例示を消すことすら検討せよ、と書いています。 例示は例示にすぎない——という読み方を、規制する側自身が、これ以上ないかたちで裏づけています。

ただし、範囲は正確に書きます。 この通達は自転車利用者の指導取締りに関する文書です。二輪車の取締りについて書かれたものではありません。ここで引いたのは、通達が「公安委員会規則の規定の趣旨」そのもの——愛知県でいえば同じ第七条第四号——を警察庁自身がどう理解しているか、を書いているからです。二輪車の話としてそのまま読み替えられる、とまでは言いません。

ただし、以下は必ず添えます。

  1. 「〜など」は例示であって、限定列挙ではありません。 必要な音が聞こえなくなるほど遮音すれば、耳栓であっても対象になり得ます。高遮音のフォーム耳栓を深く挿入すれば、その可能性は現実的です。
  2. 実務上は、条文解釈ではなく現場の警察官の判断です。 「条文は可聴性の問題だ」が正しくても、話しかけられないという保証にはなりません。ただし上の通達は、その判断を何に基づいて行うかまで指示しています——声掛けへの反応、装置の形状と音量。止められない保証にはなりませんが、止められたときに何を見られるかは分かります。
  3. 細則は都道府県ごとに違います。 調べた範囲——愛知、東京、神奈川、茨城、大阪、北海道、栃木、福岡、岩手、広島——では、条文が例示として名指ししているのはカーラジオ、イヤホン、ヘッドホン、カーオーディオの類で、「耳栓」を名指ししている条文は見つかりませんでした。 ただし47すべてを確認したわけではありません。 そして上の通達に従えば、仮にどこかが名指ししていたとしても、問われるのは結局「聞こえているか」です。自分の都道府県の細則を読んでください。
  4. 私たちは弁護士ではありません。 ここに条文を載せたのは、あなた自身に読んでもらうためです。

耳栓については、ここでは要点までです。走行中の使用が法規上どう扱われるのかを条文と通達に当たって確かめたものと、周波数帯ごとの遮音値を公開している製品の比較は、耳栓を扱った記事にまとめました。

重量

重いヘルメットは、

  • 首を疲れさせる(=集中力を削る)
  • 回転慣性が大きい(=斜め衝撃で首と脳にかかる負荷が大きくなりうる)

軽さは、快適性であり、同時に安全要素です。カーボンにお金を払う理由があるとすれば、ここです。ただし、帽体は総重量の一因にすぎないことを忘れないでください。あるモデルのカーボン版が同モデルのFRP版より軽くても、別モデルの安いポリカーボネート版より重いことはあり得ます。重量で選ぶなら、総重量で比べてください。

14落とした・軽く転んだ。まだ使えるのか

内装を外して白いEPSライナーを点検する
見た目が無傷でも、中は仕事を終えていることがある。内装を外して直接見る。

パーキングでシートから落とした。立ちゴケした。この判断は、ライダーなら一度は迷います。

メーカーの答えは「ケースバイケース」

SHOEIの回答は明快です。落下時の損傷の程度は、落下した高さ、状況、衝突した対象物の種類によって大きく異なる。だから一律の答えはない。

そして、いちばん大事な指摘がこれです。帽体は、一度衝撃を受けても外観上は元の形状に戻る場合がある。 見た目だけでは損傷の有無も程度も判断できません。

自分で確認できること

SHOEIが挙げているサインは2つ。

  1. ヘルメットの端部に、これまで見られなかったシェルと衝撃吸収ライナーの隙間が生じている
  2. 衝撃吸収ライナーにひび割れなどの異常が認められる

強い衝撃で圧縮や変形が生じると、シェルとライナーの間に隙間ができることがある、という理屈です。

内装(チークパッド・コンフォートライナー)を外して、白いEPSを直接見てください。見るのは、割れ、潰れ(一部だけ凹んでいないか)、変色、シェルとの隙間、接着の剥がれ。

そして忘れずに、落とした場所と反対側も見てください。 帽体は衝撃を分散します。当たった場所だけが仕事をしたとは限りません。

メーカーの立場

SHOEIは、強い衝撃を吸収したヘルメットの修理は受け付けていません。 理由は、一度大きな衝撃を吸収したヘルメットは次の衝撃で本来の性能を発揮できなくなる恐れがあるため。

迷うなら購入店かメーカーに問い合わせて点検を受けること。これが公式の推奨です。

日本の競技団体は、実際にヘルメットを検査して、落としています

MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)の国内競技規則には、こう書かれています。

競技会の車両検査受付け時に、ヘルメット検査が行われる。検査に合格しなかったヘルメットは、当該ライダーの安全上その使用を禁止する。

そして、落とす基準を公開しています。

●使用が認められない例 1)帽体本体の樹脂部分に至る損傷(ひび割れ)がある場合。 2)帽体本体の樹脂部分を削るようなスライド痕がある場合。 3)帽体本体の発泡スチロールの緩衝材に損傷(ひび割れ・窪み)がある場合。 4)顎紐取り付け部、Dリング取り付け部、紐自体の劣化等ヘルメットの固定に支障がある場合。

これは助言ではありません。合否のある検査です。 落ちたら走れません。

Arai自身の交換基準も、同じところを見ています——内装のへたり、あご紐のほつれ、発泡スチロールの熱による膨れ。メーカーと競技団体が、別々に、同じところを見ています。 とくに発泡スチロールの状態——Araiは「熱による膨れ等の変形」、MFJは「ひび割れ・窪み」。どちらも、内装を外せば見えます。

この警告は、あなたのヘルメットに書いてあります

SG基準は、製品本体に、容易に消えない方法で、次の趣旨を表示することを義務づけています。

大きな衝撃を受けたヘルメットは、外観に損傷がなくても使用してはならないこと

「外観に損傷がなくても」。

これは、この節が言おうとしていることの全部です。そしてそれは、この記事が主張していることでも、メーカーが親切で言っていることでもありません。日本の認証基準が、ヘルメット本体に書けと定めている文言です。

ヘルメットの内側を見てください。店頭の一個でも、いま持っている一個でも、たぶん書いてあります。

日本では、Araiが無料で点検しています

Araiは取扱説明書で、衝撃を受けたヘルメットの検査を無料で受け付けると明記しています。

一度でも大きな衝撃を受けたヘルメットは継続して使用せず、弊社品質管理課まで事故の状況説明と共にヘルメットをお送り頂き、再使用可能かどうか検査を依頼されるか、新しいヘルメットをご購入ください。※ヘルメットの検査は無料。ヘルメット往復送料はお客様のご負担となります。

検査自体は無料、往復の送料のみ自己負担。 事故の状況説明を添えて品質管理課へ送ります。

そしてArai自身が、FAQでこう明言しています。「たとえ、使用開始から3年以内であっても、転倒などで衝撃が一度でも加わった場合は使用しないでください」。 年数の目安より、この一文のほうが優先されます。

そして同じ説明書は、なぜ自己判断が効かないかも書いています。「かぶった状態で衝撃を受けたヘルメットは、例え外観に大きなキズが見られなくても衝撃吸収のために内部構造は壊れています」。 SHOEIがJAMAに述べた内容と同じです。2社が、別々に、同じことを言っています。

メーカーの点検サービスの規約が、いちばん正直です

SHOEIのアメリカ法人は、実際に無料の衝撃点検サービスを提供しています。ここまでの話なら「じゃあ点検に出せば分かるのか」と思うところですが、その規約を読むと、話は逆になります。

同社が自ら明記していることを、そのまま並べます。

  • SHOEIと米国の販売元は、点検に出されたヘルメットの大半を承認しない。 大きな衝撃を受けたヘルメットは交換を強く推奨する
  • X線検査は行わない。評価は表面の損傷の確認に限られ、SHOEIのガイドラインに基づく推奨を返すのみ
  • 点検結果にかかわらずヘルメットは返却され、使い続けるか交換するかの最終判断は、完全にあなたに委ねられる
  • 両社とも、その判断について責任を負わず、点検があらゆる欠陥を発見できることも保証しない

つまり、メーカー自身の点検サービスは——表面を見るだけで、たいていは「替えなさい」と言い、すべては見抜けないと認めており、そして結論はあなたに返してくる。

これはSHOEIへの批判ではありません。むしろ逆で、目視点検の限界について、この上なく正直です。

ただ、そこから出てくる結論は、はっきりさせておきます。「点検に出せば教えてもらえる」のではありません。 作った本人たちも含めて、誰にも分からない。そして彼らはそれを書面で認めています。

最後は自分で決める

正直に書きます。駐車場でシートから落として、EPSに異常がなく、隙間もない場合、そのヘルメットが危険である証拠はありません。同時に、安全である証拠もありません。

メーカーは保守的な側に立ちます。それは彼らの立場として正しい。彼らは損傷の可能性を負えないし、負うべきでもありません。

あなたの判断材料は、こうなります。

  • 落下の高さと、当たった対象(コンクリートか、土か、シートか)
  • 目視点検の結果
  • そのヘルメットの残り寿命(3年目のヘルメットなら、悩む価値は薄い)
  • そして、あなたのリスク許容度

年に2回、近所を流すだけの人と、毎週峠を走る人では、同じヘルメットに対する答えが違って構いません。これは、誰かに決めてもらう問題ではありません。

15寿命と保管 — 「3年」の正体

風通しの良い室内でヘルメットを保管する
いちばん安いヘルメット長持ち術は、たぶん「置き場所を変える」こと。

日本は3年、海外は5年。なぜ数字が違うのか

ここで混乱しやすい点を整理しておきます。バイク用ヘルメットの買い替え目安は、日本では3年、海外では5年とされていて、数字が食い違っています。どちらも自転車用の話ではありません。両方ともバイク用です。

そして、それぞれの数字の出どころを辿ると、まったく違う場所に着きます。

「5年」を辿ると、試験に着く

海外の5年は、スネル記念財団の推奨です。財団は、その根拠を自らのFAQでこう説明しています。

良好な状態で保管された未使用のヘルメットが、5年で自動的に期限切れになるわけではない。 5年での交換は、ジョージ・スネリー博士がカリフォルニア・ハイウェイ・パトロールの使用済みヘルメットを試験した結果に基づく判断(a judgement call)である、と。

まず、この書き方に注目してください。「5年で自動的にダメになるのではない」と、財団自身が先回りして否定しています。 そして自ら「判断(judgement call)」という言葉を使っています。断定していません。

そのうえで、理由を説明しています。

着脱を繰り返すという単純な行為を含む使用による摩耗が、時間とともに内装パッドと衝撃吸収ライナーを傷める内装がへたったヘルメットは、新品時と比べて少なくとも1〜2サイズ大きい状態になる。 フィットが悪いヘルメットは、事故の衝撃で大きくずれたり、頭から脱げたりしやすくなる。

ここが決定的です。スネルの「5年」は、素材の経年劣化の話ではありません。フィットの話です。

内装がへたる → 実質1〜2サイズ大きくなる → 事故のときに脱げる。これがスネルの論理です。

そして、日本の警察の数字です。日本の過去3年の二輪車乗車中死者のうち、25.4%でヘルメットが脱落しています。

スネルが述べている故障モードと、日本の警察統計が示している故障モードは、同じものです。 一方はカリフォルニアの試験から、もう一方は日本の死亡事故の集計から。利害を共有しない2者が、地球の反対側から、同じ結論に着いています。

「3年」を辿ると、保険の期限に着く

一方、日本の3年です。

この数字の出どころは、SGマーク賠償制度の有効期限です。乗車用ヘルメットのSGマークの有効期限は、購入日より3年間。

保険の期限です。 製品が壊れる日ではありません。試験結果でもありません。

並べると、こうなります

数字 辿り着く先
日本 3年 SGマーク賠償制度の有効期限 — 保険の期限
海外 5年 スネリー博士によるCHP使用済みヘルメットの試験 — データ、そして明示された「判断」

試験に裏打ちされている数字のほうが、長い。保険の期限から来た数字のほうが、短い。

これは、私たちが予想していたのと逆でした。

その試験は、いつのものか

ここは、正確に書きます。

ジョージ・スネリー博士は、1983年に亡くなっています。

つまり、5年の根拠になっているCHPのヘルメット試験は、遅くとも1983年以前のもの。2026年から見て、最低でも43年前です。

古い=間違い、ではありません。 EPSと硬質シェルの組み合わせは1960年代前半には確立していて、CHPが使っていたのがその世代なら、構造は今と大きくは違いません。ただ、事実として言えるのはここまでです。5年とは、40年以上前に、一人の医師が、使用済みの警察用ヘルメットを試験した結果に基づく「判断」です。

そして、その試験そのものは公開されていません。 財団のFAQは試験の存在を書いていますが、実施年も、条件も、結果も、参照先も書いていません。探しましたが、見つかりませんでした。

これは、この記事がメーカーに向けている批判と、同じ形です。 ——ただし、違いが一つ。財団は「判断(judgement call)」だと自分で書いています。 方法を示さない数字を、証拠のような顔で出してはいない。同じ言い方をすれば、スネルの5年は「反証可能な設計基準」ではありません。「試験に基づくと説明されている判断」です。

誰が言っているかを、いちおう見ておく

メーカーは、おおむね3年を目安に点検と買い替えの検討を勧めています。SHOEIも、SGマーク制度の考え方に準じてそう案内しています。

ヘルメットを売っている会社が「3年で買い替えを検討してください」と言うとき、そこには金銭的な利害があります。 これは指摘しておくべきことです。

ただし、2点。

1. その数字はメーカーが作ったものではありません。 3年はSG賠償制度の有効期限であり、決めたのは製品安全協会、つまり自ら賠償リスクを負っている第三者です。メーカーは売るためにこの数字を発明したのではなく、既にある制度の考え方に合わせています。

2. 利害があることと、助言が間違っていることは、別です。 売り手が言っているから間違い、ではありません。中立ではないから、鵜呑みにせず中身を見る、というだけです。

では中身を見ましょう。

EPSに実際に何が起きるのか

衝撃吸収ライナーは発泡ポリスチレンです。無数の気泡に気体が閉じ込められた構造をしています。

温度で膨張・収縮します。 これは素材の性質です。夏の直射日光下を走る、炎天下でバイクを停める、車内に置く。そのたびにライナーは熱を受けています。

高温では、それ以上のことが起きます。SHOEIが確認した事例では、真夏の直射日光下に長時間放置されたヘルメットの外表面温度が70℃を超え、シェルと発泡ポリスチレン製ライナーとの間で三次発泡が発生しました。三次発泡とは、発泡ポリスチレンが熱で再び膨張・変形する現象です。元には戻りません。

そして時間とともに、EPSはへたります。潰れたまま戻らない、という方向の変化。

この2つが何を壊すか。

  • フィット — ライナーの形が変われば、頭との当たり方が変わります。緩くなれば脱落リスクが上がる。これは25.4%の話に直結します。
  • 衝撃吸収性能 — EPSは「決められた密度で、決められた厚みがあって、決められたとおりに潰れる」ことを前提に設計されています。膨張・変形・へたりは、その前提を崩します。

内装のウレタンも同じ方向に効きます。汗と湿気で加水分解が進み、へたる。フィットが緩む。

帽体側も無傷ではありません。PCなどのプラスチックは、ガソリンや各種ケミカル製品との接触で劣化するおそれがあります。給油時の跳ね、チェーンルブのミスト、パーツクリーナー。

そして、これらのどれも、外から見えません。 SHOEIも「外観上は異常が見られなくても安全性能が低下する場合がある」と述べています。

どれくらいの期間で、どれくらい劣化するのか — 分かりません

ここが正直に書くべきところです。

あなたのヘルメットが今どの程度劣化しているかを、誰も数字で答えられません。 条件がバラバラだからです。

  • 紫外線をどれだけ浴びたか
  • どういう温度履歴を辿ったか(70℃に何回、何時間さらされたか)
  • 湿気と汗にどれだけさらされたか
  • どこに、どう保管されてきたか
  • そもそも何時間かぶったか

同じ日に買った同じモデルの2つが、3年後にまったく違う状態にあり得ます。ガレージの棚に置かれていたものと、通勤バイクのミラーに毎日掛けられていたものは、同じ「3年落ち」ではありません。

だからメーカーは「期限」ではなく「目安」という言い方をします。これは逃げではなく、それ以上のことは物理的に言えないからです。3年は、あなたのヘルメットについての予測ではありません。点検を思い出すためのリマインダーです。

保管でできること

劣化を止めることはできませんが、遅らせることはできます。条件はシンプルです。

涼しく、乾いていて、風通しがよく、紫外線の当たらない場所。屋内。

避けるべきなのは、

  • バイクのシートの上に置きっぱなし
  • 車内に置きっぱなし
  • 直射日光の当たる場所
  • ミラーに掛けたまま長時間
  • ケミカル類(パーツクリーナー、チェーンルブ、ガソリン)の近く
  • 湿ったまま密閉された袋やボックスの中

使ったあとは、しっかり乾かしてから仕舞う。これだけで、加水分解も三次発泡も減らせます。

ヘルメットの寿命を延ばす最も安上がりな方法は、たぶん置き場所を変えることです。 帽体素材にお金を払うより効きます。

中古とフリマアプリ

SHOEIの指摘は明快です。フリマアプリ等の中古ヘルメットは、過去の使用状況、事故歴、保管状態を正確に把握することが難しく、安全性を確認できない場合がある。

ここまでの話を踏まえれば、理由ははっきりしています。一度の強い衝撃は外から見えない。三次発泡も外から見えない。加水分解も外から見えない。中古で買うということは、見えない履歴に自分の頭を預けるということです。

さらに模倣品の問題があります。SHOEIは、正規品によく似た模倣品が流通しており真贋の問い合わせが寄せられているとしたうえで、模倣品のなかには安全性能に関する基準を満たしていないものが確認されていると述べています。日本ヘルメット工業会も、インターネットでの模倣ヘルメット販売や、PSCマークを表示していない非適合ヘルメットの流通報告があると注意喚起しています。

法的にも、PSCマークのない乗車用ヘルメットは、中古であっても、個人であっても、販売や販売目的の陳列が規制の対象です。

リターンライダーへ

しばらく乗っていなくて、押し入れからヘルメットを引っ張り出してきた。これは中古を買うのと同じ状況です。違うのは、前の持ち主が自分だという点だけです。

そして10年前のヘルメットは、10年前の規格でもあります。当時、斜め衝撃という論点は規格に存在しませんでした。

日本の「3年」は、誰も測っていません

ここまでを整理すると、ひとつの構図が見えてきます。

SHOEIは3年を勧める理由を、こう説明しています。「SGマーク制度の考え方に準じ」、使用開始から3年を目安に状態と安全性能を見直すことを勧めている、と。

Araiは公式FAQで、「使用開始から3年を目途に交換を推奨しております」と述べています。そしてその3年がどこから来たのかは、取扱説明書に書かれています。 同社の各モデルの説明書は、揃ってこう記載しています——「SGマーク※の有効期限である三年を目安に、そのヘルメットの着用を開始した日から数えて三年以上経過したヘルメットは買い替えをお勧めします」(※(一財)製品安全協会のSGマーク被害者救済制度)。同じ説明は公式FAQにもあります——内装交換の案内に、SGマークの有効期限=着用開始から3年を目安に買い替えを勧める、と明記されています。

OGK Kabutoは「製品安全協会とJHMAにより定められている」

3社とも、「うちが測った結果3年だ」とは言っていません。 全社が、制度を指しています。そしてSHOEIは同じ口で、3年を過ぎたら直ちに危険になるものではない、とも言っています。

つまり、日本の「3年」を辿ると、測定には行き着きません。

対して海外の5年は、少なくともスネリー博士の試験を指しています。詳細は公開されていませんが、指している先が違います。

数字 メーカーは何に基づくと言っているか その先には
SHOEI(日本) 3年 SGマーク制度の考え方 賠償制度の有効期限=保険
Arai(日本) 3年 SGマークの有効期限 同上
OGK(日本) 3年 製品安全協会とJHMA 同上+メーカーの業界団体
Arai(アメリカ) 5年 スネル財団の推奨 スネリー博士のCHP試験

同じ会社(Arai)が、日本では保険の期限を指し、アメリカでは試験を指しています。

そのヘルメットが名古屋で3年、ロサンゼルスで5年で劣化する、ということはあり得ません。変わったのは物理ではなく、その市場で権威とされている制度です。

なお、OGKの引用先には、もう一段の仕掛けがあります。JHMA=日本ヘルメット工業会は、メーカー自身の業界団体です。 「第三者機関+メーカーの集まり」を根拠にしている、ということになります。

日本の競技団体は、10年と言っています

MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会) は、競技用ヘルメットについてこう書いています。

【推奨】ヘルメットは使用頻度や保存状態で経年劣化に差があるが、使用開始後10年を経過した製品は使用しないこと。

さらに予告事項として、旧規格「使用期限2026年12月31日」のヘルメットと、製造後10年が経過したヘルメットは、2027年から使用できなくなります。

推奨は「使用開始後」から数え、2027年のルールは「製造後」から数えています。 一つの団体、二つの10年、二つの起点。

そして、これが何についてのルールかを見てください。競技です。 転倒の頻度も、速度も、公道の比ではありません。その世界で、10年

一般のライダーに向けられている数字は、3年です。

同じ国で、競技は10年、消費者向けの制度は3年。 過酷なほうが、長い。

ただし、MFJは数字だけを渡しているのではありません。 MFJは競技会のたびにヘルメットを検査し、基準に合わなければ落とします。10年の下には、毎回の検査があります。

あなたのヘルメットを見る人は、いません。その代わりに渡されているのが、3年という数字です。

MFJの書きぶりにも注目してください。「使用頻度や保存状態で経年劣化に差があるが」。 ばらつきを認めたうえで、それでも数字を出す。この記事が5年について見たのと、同じ形です。

結局、劣化には時計がついていません

「目安」は制度の話。劣化は物理の話です。この2つは、別物です。

EPSの熱変形も、加水分解も、ケミカルによる帽体の劣化も、確かに進みます。でもこれらのどれにも、時計はついていません。 進むのは、あなたの保管場所、あなたの走る気候、あなたの汗、あなたがかぶった時間に応じてです。カレンダーではありません。

だから、どの数字も、全員にとって正しくはあり得ません。

そして最後があなたの判断に戻ってくるのは、助言が信用できないからではなく、その助言が答えている問いが、あなたの問いと違うからです。

制度が答えているのは「いつ点検を促すべきか」。あなたが知りたいのは「このヘルメットは、今どうなのか」。前者に後者の答えは載っていません。

メーカーは、カレンダー以外の目安も挙げています

ここまで「3年」の話をしてきましたが、Araiは同じFAQで、年数とは別の交換基準を4つ挙げています。 これは、この記事の中でいちばん実用的な部分かもしれません。

たとえ、使用開始から3年以内であっても、転倒などで衝撃が一度でも加わった場合は使用しないでください。 また、内装のへたり、あご紐のほつれ等で適正に装着できない場合や、発泡スチロール(衝撃緩衝ライナ)の熱による膨れ等の変形は衝撃吸収性能の低下を招くため、交換の目安となります。 ※修理対象モデルに限り、修理対応できる場合があります。

並べ直すと、こうなります。

交換の目安 自分で分かるか
転倒などで衝撃が一度でも加わった 起きたかどうかは分かる
内装のへたり(適正に装着できない) かぶれば分かる
あご紐のほつれ(適正に装着できない) 見れば分かる
発泡スチロールの熱による膨れ等の変形 見れば分かる

手元にあるヘルメットがあれば、4つすべてを確認できます。

そして注目してほしいのは、「内装のへたり」がここに入っていることです。スネルが5年という数字の理由として挙げたのが、まさにこれでした——内装がへたる→実質1〜2サイズ大きくなる→事故で脱げる。Araiは、それを明示的な交換基準として挙げています。

そして、Araiはそれを直せます。 着脱式のシステム内装とシステムパッドは部品として売られていて、交換すればワンサイズ前後の調整ができると公式FAQにあります。パーツリストに無い箇所の内装交換も、アフターサービス窓口が修理対象モデルに限って受け付けています。

スネルの5年が根拠にしている故障モードは、Araiのカタログでは交換可能な部品です。

ただし条件はあります。修理対象モデルに限る。ヘルメットは預かりになる。 Arai自身が「思いのほかお時間とご予算がかかる場合がございます」と書いています。古いヘルメットについては「最新の安全基準を満たしたヘルメットへ、定期的に交換される事をおすすめします」とも。

それでも、ここは要点です。 Araiは、自ら挙げた交換基準を直せると言いながら、買い替えの目安にはSGマークの有効期限を挙げています。数字を決めているのは、直せるかどうかではありません。どの制度を指すか、です。

もう一つ。「発泡スチロールの熱による膨れ等の変形」 が入っていることにも注目してください。これは、この記事で扱ってきたものが一本につながる箇所です。

  • SHOEIが記録している、夏場の車内70℃での三次発泡の事例
  • そしてArai自身が、熱による膨れを「交換の目安」に挙げている

そしてこれは、目に見えます。 経年劣化には「見えないもの」(内装の圧縮永久ひずみ、微細な劣化)と「見えるもの」(熱による膨れ・変形)があり、Araiは後者を、あなたが見つけるものとして挙げています。 買ってから一度も内装を外して中を見ていないなら、一度見てください。

結論:3つの選び方があり、どれも合理的です

  1. フィットに明らかな変化を感じたら替える。 これは、いちばん弱い選択肢に見えて、実はスネルが5年という数字を出したときの理屈そのものであり、かつArai自身が明示的な交換基準として挙げているものです。 そしてフィットの変化は、あなたが自分で体感できる唯一のサインです。 弱点は、フィットが保たれたまま帽体やEPSだけが劣化している場合を拾えないこと。ただしスネルの理屈に従うなら、先に来るのはフィットのほうです。そして、そのフィットの変化が内装のへたりなら、替えるのは内装で済むかもしれません(修理対象モデルに限る)。
  2. 目安(日本なら3年、海外なら5年)で替える。 保守的で、考えなくて済みます。ただし、その数字が何を指しているかは知っておいてください。日本の3年は保険の期限、海外の5年は数十年前の試験に基づく「判断」です。
  3. それより早く替える。 走行距離が多い、夏に酷使する、毎日かぶる、衝撃を受けたことがある。着脱の回数が多ければ、スネルの言う摩耗はその分早く来ます。自分の使い方が平均より過酷だと分かっているなら、目安より短くするのは筋が通っています。

どれを選ぶかは、あなたのリスク許容度の問題です。 そしてこれは、この記事が逃げているのではありません。スネル記念財団自身が、5年という自社の推奨を「判断(a judgement call)」と呼んでいます。 数字を作った当人が、判断だと言っているのです。

あなたのヘルメットが今どういう状態かを、数字で答えられる人は誰もいません。だから、あなたが決めることになります。

3年日本(SHOEI/Arai/OGK) 出どころ → SG賠償制度の有効期限 =保険の期限であって、寿命ではない 誰も「測って3年」とは言っていない 5年海外(スネル財団) 出どころ → スネリー博士の実測 CHP(警察)使用済みヘルメットの試験 理由はフィット。ただし40年以上前の判断
「3年」と「5年」は、たどると別のところに着く。試験に裏打ちされているのは長いほう、保険の期限から来ているのが短いほう——直感と逆。

16ラベルの読み方 — 店頭用クイックリファレンス

ヘルメットのラベル(PSC/SG表示)を確認する
この章はスマホで店頭に開くためのもの。後頭部の外側と、内装の内側を見る。

この節はスマホで開いて、店頭で使うことを想定しています。 ヘルメットを手に取ったら、後頭部の外側と、内装をめくった内側を見てください。表示は、その2か所に分かれています。

見るべき表示の一覧

表示 どこにあるか 読み方 これが意味すること
PSCマーク 帽体の外側・後部のステッカー。SGと同じステッカーに併記されているのが通常 丸形(円形囲み)のPSCマーク 販売の最低条件。これがなければ日本で売ってはいけない品です。 そして丸形=特定製品=自己確認品目。誰が確かめたかが、マークの形に出ています
SGマーク 同上 SGの文字 任意の第三者認証。賠償制度の対象。有効期限は購入後3年
SGの排気量区分 SG表示の近く 「125cc以下用」等の記載 126cc以上に乗るなら、この表示があるものは避ける。賠償の対象外になり得ます
JIS種別 PSC/SGのステッカー上、または内装の奥のラベル 1種 = 125cc以下2種 = 排気量無制限 大型に乗るなら2種。1種と2種は要求水準そのものが違います
ECEマーク あご紐に縫い付け/貼付されたラベル(R22は保持装置への表示を要求) 円で囲んだE+数字(認可した国)→06(規格の版)→承認番号→P / J / NP / P/J→ハイフン→製造シリアル番号 06=ECE 22.06=斜め衝撃(回転)試験を通過済み。 05は22.05で回転試験なし。そして保護区分の文字が最重要P=顎を保護する認証済みチンガード/J=オープンフェイス/P/J=システム(閉じた状態でのみ顎の保護が保証される)/NP=顎の前に何か付いているが顎を保護しない
SNELLステッカー 帽体内側(内装をめくった位置) M2025D / M2025R ステッカーは偽造が多い。smf.orgのデータベースで型式を照合すること。載っていなければ、貼ってあっても認証されていません
SNELLの但し書き SNELLステッカー上 「Some reasonably foreseeable impacts may exceed this helmet's capability to protect against severe injury or death」 「合理的に予見できる衝撃の中に、このヘルメットの保護能力を超えるものがあり得る」。認証機関が、認証したヘルメットのラベルにこう書いています。一度は読んでおく価値があります
製造年月 内装の奥のラベル。あご紐のタグに刻印されている機種もある 年月の刻印・表示 SG基準が表示を義務づけている項目です(製造年月若しくは輸入年月又はその略号)。中古を検討するなら必ず見る。「購入後3年」の3年は、あなたが買った日からです
衝撃後の使用禁止の警告 PSC/SGのステッカー上、または内装の奥のラベル 「大きな衝撃を受けたヘルメットは、外観に損傷がなくても使用してはならない」旨 SG基準が製品本体への表示を義務づけています——そのままヘルメットに書いてあります
「公道使用不可」 帽体の外面の見やすい箇所 14ポイント(4.9mm)以上の活字。ただし経産省の通達上は「望ましい」であって、義務ではない これはヘルメットではありません。かぶってはいけません。 表示が小さくても、無くても、判断は変わりません

店頭での確認順序

  1. PSC/SGステッカーはあるか。 なければ、その場で終わりです。
  2. 「公道使用不可」の表示はないか。 あればヘルメットではありません。
  3. 排気量区分は自分のバイクに合っているか。 JIS 2種か。SGが「125cc以下用」になっていないか。
  4. 製造年月はいつか。 在庫が古い可能性があります。
  5. ECEがあるなら、05か06か。そして末尾の文字は何か。 06なら回転試験を通っています。そしてNPなら、そのチンガードは顎を守りません。
  6. SNELLがあるなら、smf.orgで型式照合。 その場でスマホで引けます。
  7. そのうえで、フィッティングの確認(頭頂部・チークパッド・額の隙間・揺らして動かないか)。

1〜6は全部で1分もかかりません。7は30分かけてください。

ステッカーを剥がさないこと(手放す予定があるなら)

かぶって走るぶんには、ステッカーの有無は関係ありません。表示の義務は売る側にかかるもので、剥がしたこと自体に罰則もありません。効いてくるのは、手放すときです。

PSCマークのないヘルメットは、日本では販売も、販売目的の陳列もできません。 そしてPSCとSGは一枚のステッカーに併記されているのが通常なので、SGを剥がせばPSCも一緒に剥がれます。買い替えのときの下取りも、フリマアプリへの出品も、ステッカーが残っていることが前提になり得ます——下取りの扱いは店によって違い、表示のないものを受け付けない場合があります。見た目のために剥がした一枚が、選べる出口を減らします。

ただし、渡す相手にとっては、履歴の見えない中古です。 中古を勧めないという立場は、自分が売る側に回っても変わりません。

17まとめ — 決めるのはあなたです

要点だけ、まとめます。

  1. ヘルメットが命を守る仕組みは、EPSが潰れることだけ。 それ以外の層は、そこに至るまでの補助です。
  2. PSCは自己認証。 国が試験したわけではありません。SGは第三者認証で、賠償制度が付いています。
  3. 規格は「その規格の試験に通った」ことだけを保証する。 日本のPSC/SG/JISは、回転(斜め衝撃)を試験していません。
  4. 同じ規格でも保護性能は違う。 SHARPは、同じECE規格に適合したヘルメットでも保護性能に大きな幅があることを実測しています。そして5つ星は価格帯を問わず存在します。
  5. 「規格を上回る」という主張は、試験の詳細が公開されていなければ検証できません。 検証できないことは、嘘であることを意味しませんが、証拠でもありません。
  6. フィットは価格ではなく個体差の問題。 合わないヘルメットは脱げます。死者の25.4%で脱落しています。
  7. あご紐は、統計上、最も多く失敗している装備。 正しく締められているか、確かめる。
  8. 業界全社が風洞を持ち、全社がそれを語り、衝撃試験のプロトコルを公開している会社は1社もありません。 検証できるものは、比較を招くからです。
  9. ヘルメットは頭を守ります。それ以上は一切しません。 首も、首から下も、ヘルメットの仕事ではありません。そして、重い後遺障害を避けられる保証もありません。都内の致命傷部位は過去5年平均で頭部43.2%/胸部29.2%(警視庁)。これに対し着用率はヘルメットほぼ100%/胸部プロテクター9.9%。ヘルメットに全額を使うのは、この偏りをさらに広げる使い方です。
  10. 日本の3年はSG賠償制度の有効期限=保険の期限であって、寿命ではない。 海外の5年はスネリー博士の試験に基づく「判断」で、その理屈はフィットです——内装がへたれば実質1〜2サイズ大きくなり、事故で脱げる。いちばん先に壊れるのはフィットであり、それはあなたが体感できる唯一のサインです。

そして、この記事が出せない答えがあります。

どの規格を、どこまで求めるか。 数を集めるのか(PSC+SG+JIS+ECE 22.06+SNELL)、特定の思想を信じるのか(スネルの硬めか、ECEの柔らかめか)、SHARPの星を優先するのか。

規格の設計者たちですら合意していません(スネルがM2025を2つに分けた経緯がその証拠です)。完璧な試験は存在せず、あなたの事故がどの形で来るかは誰にも分かりません。

だから最後は、あなたがどう乗って、何を怖いと思い、どこまでのリスクを受け入れるかで決まります。年に2回近所を流す人と、毎週峠に行く人と、毎日通勤で車の間を走る人が、同じ結論に至る必要はありません。

私たちにできるのは、判断の材料を、売り手の都合抜きで並べることだけです。それがこの記事です。

紅葉の峠道の路肩に停められたバイクと、シートに置かれたヘルメット
装備の話は、ここまで。あとは走るだけ。

Japan Bike Cafe について

Japan Bike Cafe は、バイクで走って楽しい道の先にある目的地を集めたディレクトリです。現在地や都道府県から探せて、駐車場の路面(舗装/未舗装)とアクセス路の路面、そして一般的な地図には載らないライダー向けのメモを掲載しています。

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理想のヘルメットが見つかったら、それを被って、どこへ行きますか。

よくある質問

PSCマークとSGマークは、何が違うのですか?

どちらもヘルメットに付く日本のマークですが、性格が違います。PSCは販売の条件で、これがなければ日本で売ることも、売る目的で陳列することもできません。SGは任意です。決定的な違いは「誰が確かめたか」。乗車用ヘルメットのPSCは自己確認品目で、メーカー自身が試験し、自分でマークを付けます。SGは製品安全協会による第三者認証で、製品の欠陥が原因と認められた人身事故には賠償措置がつきます(購入後3年以内などの条件あり)。なお、どちらも回転(斜め衝撃)は試験していません。

ヘルメットは高いほど安全ですか?

価格と安全性は比例しません。同じ安全規格を取っていれば、高いほうが頭をよく守るという保証はありません。英国SHARPは「価格と星の相関はない」と公表しており、5つ星は価格帯を問わず存在します。本質は、満足できる最低規格を満たし、かつ自分の頭にフィットしていること。合わないヘルメットは脱げます。

落とした・軽く転んだヘルメットは、まだ使えますか?

外見だけでは判断できません。帽体は衝撃後に元の形へ戻ることがあり、EPS(発泡)の損傷は見えにくいからです。内装を外し、EPSの割れ・潰れ・帽体との隙間を確認します。強い衝撃を受けたものは「外傷がなくても使用しない」——これはSG基準がヘルメット本体に表示を義務づけている内容です。最後は自分のリスク許容度で判断を。

ヘルメットの寿命は本当に3年ですか?

日本の「3年」はSG賠償制度の有効期限=保険の期限であって、製品が壊れる日ではありません。海外の「5年」はフィット低下を理由とする判断です。劣化に決まった時計はなく、UV・熱履歴・汗・使用時間で進み方が違います。いちばん先に、そして体感できるかたちで壊れるのは「フィット」。明確にゆるくなったら交換のサインです。