オイルのボトルには「10W-40」や「5W-40」のような数字が書いてあります。前の数字は何で、後ろの数字は何なのか。取扱説明書とちがう数字を入れたら、何が変わるのか。
この記事では、粘度の分類を決めているSAE J300の表と、メーカーが公開している数字を読みます。先に言ってしまうと、「10W-40」は1つの値ではなく、冷えたときと温まったときの2つの枠です。そして取扱説明書も、粘度を1つに決めているとは限りませんでした。
目次(タップで開閉)
1「10W-40」の読み方——Wは「冬」、後ろは100℃
エンジンオイルの粘度の分類は、アメリカの自動車技術者協会(SAE)の規格、SAE J300が決めています。この記事では、2021年4月の版の表を使います。2024年5月に改訂版が出ていますが、何が変わったのかは確かめられていません。
「10W-40」は、2つの分類を両方満たす油の名前です。
- 前の「10W」——冷えたときの分類。Wは「Winter(冬)」の略です。
- 後ろの「40」——100℃での粘りの分類。
Wを「weight(重さ)」の略と説明している記事も見かけます。カストロールも、J300の表を載せている潤滑油メーカーの資料も、Wは冬の意味だと書いています。
2つの分類を両方満たすオイルを、マルチグレードと呼びます。どちらか1つだけのオイルもあり、シングルグレードと呼ばれます。比較表にも「SAE 40」「SAE 50」と書かれた製品があります。私が乗っていたVTR1000Fの取扱説明書の表にも、「10W」や「30」のようなシングルグレードが載っていました(§7)。
なお、比較表には「50WT」「70WT」と書かれた製品もあります。これはJ300の分類の名前ではありません。J300の分類は60までで、「70」はありません。
2後ろの「40」——100℃で測る粘りの枠
後ろの数字は、100℃の動粘度で決まります。オイルが細い管を自分の重さで流れ落ちる時間から求める、ゆっくり流れているときの粘りです。J300の枠は、こうなっています。
| 分類 | 100℃動粘度(mm²/s) | HTHSの下限(mPa·s) |
|---|---|---|
| 8 | 4.0以上6.1未満 | 1.7 |
| 12 | 5.0以上7.1未満 | 2.0 |
| 16 | 6.1以上8.2未満 | 2.3 |
| 20 | 6.9以上9.3未満 | 2.6 |
| 30 | 9.3以上12.5未満 | 2.9 |
| 40 | 12.5以上16.3未満 | 3.5(0W-40、5W-40、10W-40)/3.7(それ以外) |
| 50 | 16.3以上21.9未満 | 3.7 |
| 60 | 21.9以上26.1未満 | 3.7 |
枠には幅があります。「40」は12.5から16.3までで、下端と上端で約30%ちがいます。比較表で100℃動粘度を1つの値で公開している10W-40の78製品は、13.00から15.80まで、22%の幅で散らばっていました(エンジンオイルの記事の§2)。同じ「10W-40」でも、温まったときの粘りは同じではありません。
表の右の列は、高温で強く揉まれたときの粘り(HTHS)の下限です。単位がmPa·sで、動粘度とは測り方がちがいます。読み方は、HTHSの記事の§1と§2にまとめています。
3前の「10W」——−25℃で、回せるか・送れるか
前の数字は、冷えた油の2つの試験で決まります。
- 低温クランキング粘度(CCS)——冷えたエンジンを回せるか。エンジンの始動をまねた試験です。
- 低温ポンピング粘度(MRV)——冷えたオイルを、ポンプが吸い上げて送れるか。
| W分類 | CCSの上限(mPa·s) | MRVの上限(mPa·s) | 100℃動粘度の下限(mm²/s) |
|---|---|---|---|
| 0W | 6,200(−35℃) | 60,000(−40℃) | 3.8 |
| 5W | 6,600(−30℃) | 60,000(−35℃) | 3.8 |
| 10W | 7,000(−25℃) | 60,000(−30℃) | 4.1 |
| 15W | 7,000(−20℃) | 60,000(−25℃) | 5.6 |
| 20W | 9,500(−15℃) | 60,000(−20℃) | 5.6 |
| 25W | 13,000(−10℃) | 60,000(−15℃) | 9.3 |
「10W」を名乗るには、−25℃でCCSが7,000 mPa·s以下、−30℃でMRVが60,000 mPa·s以下であることが求められます。MRVの試験では、粘りが上限の内側でも、オイルが固まりかけて流れ出さない状態が測れれば不合格です。
どれも上限です。「10W」は「−25℃でこれより硬くならない」という約束で、その油が−25℃でいくつなのかは、表示からは分かりません。
カストロールは、Wの前の数字が小さいほど冷えたときによく流れ、5W-30は始動時の温度で10W-30より流れやすい、と書いています。ヤマハ発動機は、マイナス30℃の世界で通常のバイク用オイルを入れると「冷蔵庫に入れたオリーブオイルのように固まってしまい」、クランクが回らないと書いています。同社は、スノーモビル用に0W-30のオイルを用意しています。
4Wの数字は、測る温度がちがう——後ろの数字から前は読めない
§3の表の、温度の列を見てください。0Wは−35℃、5Wは−30℃、10Wは−25℃。Wの分類ごとに、試験の温度がちがいます。
そのため、CCSの数字は、Wがちがうオイルどうしでは並べて比べられません。デイトナが公開しているモトレックスのTOP SPEED 4Tで見ると、こうなります。
| 製品 | CCS | 測った温度 | 100℃動粘度 |
|---|---|---|---|
| TOP SPEED 4T 5W-40 | 5,641 mPa·s | −30℃ | 14.5 mm²/s |
| TOP SPEED 4T 10W-40 | 5,118 mPa·s | −25℃ | 13.9 mm²/s |
数字だけ見ると、5W-40のほうが大きい。ただし、5W-40は5℃冷たいところで測っています。同じ温度で測った値は、公開されていません。
後ろの数字から、前の数字も読めません。同じモトレックスで、FORMULA 4T 10W-40のCCSは6,348、CROSS POWER 4T 10W-60は3,490でした。温まったときに濃い10W-60のほうが、−25℃では軽いのです(エンジンオイルの記事の比較表)。
5冷えたオイルと、温まったオイル——粘りは数百倍ちがう
冷えたときと温まったときの数字を、同じオイルで並べます。TOP SPEED 4T 10W-40です。
単位がちがうので(mPa·sとmm²/s。HTHSの記事の§1)、そのまま割り算はできません。mPa·sをmm²/sに直すには、オイルの密度で割ります。オイルの密度は水より小さく、たとえばシルコリンのSUPER 4 10W-30の資料では15℃で0.862 g/mlです。直すと、−25℃の数字はさらに大きくなります。−25℃の粘りは、100℃の360倍を超えます。40℃でも、100℃の6倍以上です。
冷えた朝にエンジンをかけた直後のオイルは、走っているときとは別物の粘りです。
ただ、どれだけ早くオイルが行き渡るかは、Wの数字だけでは決まりません。1989年にSAEで発表された論文(Kytö)は、冷やした乗用車のエンジン2台で、いちばん遠いカムシャフトの軸受まで油圧が届く時間を測りました。低い温度では、同じ粘度分類のオイルどうしでも、送られやすさに目立った差があったと報告しています。車のエンジンでの結果で、バイクの数字ではありません。
6測った値か、枠の書き写しか——データシートの粘度の読み方
データシートの粘度の数字には、3つの種類が混ざっています。
- 測った値——その製品を試験した値。多くは「代表性状」や「typical」と書かれた、代表的な1つの値です。
- 枠の書き写し——「CCS ≦7,000」のように、分類の上限をそのまま書いたもの。
- 書いていない——比較表の320製品のうち、252製品はCCSを公開していません。
CCSを公開している68製品のうち、18製品は枠の書き写しでした(リキモリ15製品、Repsol 3製品)。測った値は50製品です。「≦7,000」は、その油が10Wだと言い直しているだけで、新しい情報はありません。
測った値も、ロットごとの保証値ではありません。シェルのAdvance 4T Ultra 10W-40は、資料の版によって100℃動粘度が14.02から15.80まで変わっていました(エンジンオイルの記事の§2)。
表示の枠から外れた値が、メーカー自身の資料に載っていることもあります。シルコリンのSUPER 4 10W-30は、英国のFUCHSが2026年8月4日に出した資料で、「SAE J300: 10W-30」と書きながら、100℃動粘度を14 mm²/sと載せています。30の枠は12.5未満なので、この値は40の枠に入ります。同じ製品を、イタリアのFUCHSの資料は10.7としています。比較表で100℃動粘度を1つの値で公開している253製品のうち、自分の粘度表示の枠を外れていたのは、この1製品だけでした。資料の誤りだと思いますが、どちらが正しいのかは、私には確かめられません。
7取扱説明書は、粘度を1つに決めていない——ホンダとトライアンフ
粘度を決める出発点は、取扱説明書です。ただ、説明書が挙げている粘度は1つとは限りません。同じ機種でも、仕向け地や年式で書き方が変わります。私が乗っていたホンダVTR1000Fの取扱説明書3つの版と、整備士向けのサービスマニュアルを並べました。
| 説明書 | 1つ挙げている粘度 | 気温の表に載っている粘度 |
|---|---|---|
| 日本向け(BC-SC36、平成11年排出ガス規制適合車) | 推奨オイル:Honda純正のウルトラG2・G3(10W-40) | 10W-30、10W-40、20W-40、20W-50、10W、20W、30、40 |
| 英国・欧州・オーストラリア向け(2002年版、英仏独語) | なし | 10W-30、10W-40、15W-40、15W-50、20W-40、20W-50、10W、20W、20、30、40 |
| 英国・欧州・オーストラリア・ニュージーランド向け(2005年版、英伊西語) | SAE 10W-30 | 10W-30、10W-40 |
| サービスマニュアル(英語) | SAE 10W-40 | 10W-30、10W-40、15W-40、15W-50、20W-40、20W-50、10W、20W、20、30、40 |
日本向けの説明書は、こう書いています。
エンジンオイルは、外気温に応じた粘度のものを下表にもとづきお使いください。
サービスマニュアルは、推奨を10W-40としたうえで、こう添えています。走る地域の平均気温が表の範囲に入っていれば、表にあるほかの粘度も使える(私訳)。2005年版の英語の取扱説明書も、粘度は走る地域の平均気温にもとづいて選ぶもので、表はその目安だ、と書いています(私訳)。どの資料も、粘度を1つに固定していません。1つ挙げている粘度も、日本向けとサービスマニュアルは10W-40、2005年版の取扱説明書は10W-30で、資料によってちがいます。私のVTRは、オイルフィラーキャップに「10W-40」と刻印されていました。
トライアンフは、書き方がちがいます。私のスピードトリプル1050(2008年式)の取扱説明書は、半合成か全合成の10W/40か15W/50を「指定」しています。
どちらのメーカーの説明書も、表から外れたときに何が変わるかは書いていません。説明書が何に答えているのかは、エンジンオイルの記事の§15で扱っています。
8日本の冬で、Wの数字はどこまで効くか
10Wの試験温度は−25℃です。名古屋の1月の日最低気温は、平年値で1.1℃(気象庁、1991〜2020年)。日本の多くの地域では、冬の朝でも、10Wの枠の温度には届きません。
寒い地域では、話が変わります。旭川の2月の日最低気温は、平年値で−11.8℃です。20W-50のCCSの試験温度は−15℃なので、寒冷地に置いたバイクでは、Wの数字が実際に効いてくる範囲に近づきます。
そして、0℃前後でも、Wの数字が小さいオイルのほうが流れやすい向きにあることは、§3のカストロールの説明のとおりです。どれだけちがうのかを、バイクで、日本の冬の気温で測った公開データは、私が探したかぎり見つかりませんでした。始動直後の摩耗が5Wと10Wでどれだけちがうのかも、同じです。
9私の場合——冬は5W-40か0W-40、ふだんは10W-40
ここからは、私自身の話です。
VTR1000Fには、ほとんど10W-40を入れていました。説明書の表にあり、日本向けの推奨オイルの粘度でもあります。
ときどき、5W-40や0W-40を入れました。これは、どの版の説明書の表にもない粘度です。後ろの40は表の10W-40と同じで、前の数字だけが小さい。安く買えて、ほかの数字にも納得できたときだけです。私が買っていた範囲では、後ろの数字が同じなら、前の数字が小さいほど値段が高い傾向があったので、毎回ではありません。入れるときは寒い時期を優先し、暖かい時期は10Wで節約していました。
理由は、こうです。冷えたときの粘りが低いほうが流れやすく、冷えた状態でかけたときに、オイルが動く部品へ少し早く行き渡る。そして、温まれば、どのオイルも冷えたときよりずっと薄くなる(§5)。エンジンは、その温まった状態で回るように作られている。だから、冷えたときに軽いことが、エンジンに悪いとは考えませんでした。
ただ、測ったわけではありません。どれだけ早く行き渡ったのかも、摩耗が減ったのかも、私には分かりません。説明書の表にない粘度を入れたのは、私の判断です。
いまのスピードトリプルには、レッドバロンのオイルリザーブで10W-40が入っています(オイル交換時期の記事の§9)。
10私なら、こう選びます
ここまでを踏まえた、私の選び方です。推奨ではありません。
- まず、取扱説明書の気温の表を見る。1つ挙げている粘度があれば、それも。
- 後ろの数字は、説明書に合わせる。温まったときの粘りの枠で、HTHSの下限もここで決まります。
- 前の数字は、自分がいちばん冷えた状態でかける気温で考える。日本のふつうの冬なら、10Wの試験温度には届きません。それでも、小さいほうが流れやすい向きにはあります。
- CCSを比べるなら、同じWどうしで。「≦7,000」は、測った値ではありません。
- 表にない粘度を入れるなら、自分の判断だと分かったうえで。私は、そうしていました。
粘度が決まったら、次は行き先です。Japan Bike Cafeは、駐車場とアクセス路の路面がわかるツーリング先を、現在地や都道府県から検索できるディレクトリです。
よくある質問
10W-40の「W」は何の略ですか。
冬(Winter)の略です。重さ(weight)ではありません。Wの付いた前の数字は冷えたときの分類で、10Wなら−25℃でエンジンを回せることと、−30℃でポンプがオイルを送れることの上限を満たす、という意味です。
10W-40の「10」と「40」は何を表しますか。
「10W」は、−25℃で低温クランキング粘度が7,000 mPa·s以下、−30℃で低温ポンピング粘度が60,000 mPa·s以下であることです。「40」は、100℃の動粘度が12.5以上16.3 mm²/s未満であることです。どちらも枠で、その油を測った値ではありません。
10W-30と10W-40の違いは何ですか。
冷えたときの枠は同じで、温まったときの枠がちがいます。100℃動粘度は、30が9.3以上12.5 mm²/s未満、40が12.5以上16.3 mm²/s未満です。高温で強く揉まれたときの粘り(HTHS)の下限も、30が2.9、10W-40が3.5 mPa·sです。
5W-40と10W-40は、どちらがいいですか。
温まったときの枠は同じで、ちがうのは冷えたときの枠です。5Wは−30℃、10Wは−25℃で試験します。冷えたときに流れやすいのは5Wの側ですが、日本のふつうの冬の気温での差を測った公開データは見つかりませんでした。まず取扱説明書の気温の表を確かめてください。
取扱説明書とちがう粘度を入れてもいいですか。
説明書の気温の表に載っている粘度なら、気温に合わせて選ぶものです。ホンダのVTR1000Fのサービスマニュアルは、走る地域の平均気温が表の範囲に入っていれば、表にあるほかの粘度も使えると書いています。表にない粘度を入れたときに何が変わるかは、説明書には書かれていません。
冬は粘度を変えたほうがいいですか。
説明書に気温ごとの粘度があれば、それに従ってください。10Wの試験温度は−25℃で、名古屋の1月の日最低気温の平年値は1.1℃です。日本の多くの地域では、10Wの試験温度には届きません。私は寒い時期に、前の数字が小さいオイルを選ぶことがありました。