目次(タップで開閉)
- 1. 「バイク用」というラベルは、何を保証しているのか
- 2. 手のどこが壊れるのか——壊れたグローブから逆算する
- 3. ナックルガード——何のための装備で、成立条件は何か
- 4. 手のひら側——多くのグローブが持っていない「もう半分」
- 5. パッドではなく、スライダー
- 6. 小指——名指しで高リスクに分類されている指
- 7. カフ——5mmと50mmのあいだ
- 8. 28km/hで、何秒もつか
- 9. 縫い目——素材の強さは、ここで止まる
- 10. CE(EN 13594)は、何を試験しているのか
- 11. MotoCAP——362製品を実際に切って測るとどうなるか
- 12. 日本には、規格がない
- 13. 店頭でできること、そして決めるのはあなたです
- よくある質問
バイク用品店のグローブ売り場には、値段も見た目もばらばらな「ライディンググローブ」が並んでいます。数千円のものから、数万円のものまで。
けれど「ライディンググローブ」と書いてあることは、転倒したときにどこまで手を守れるかを、何も保証していません。 ナックルに硬いパーツが付いていることも、同じです。
では何を見ればいいのか。この記事は、その答えを「事故で手はどう壊れるか」から逆算して組み立てます。守るべき部位を先に決めて、それぞれに対して何が必要かを見る。順番が逆だと、付いている装備の数を数えるだけで終わります。
1「バイク用」というラベルは、何を保証しているのか
先に結論を書きます。日本国内では、何も保証していません。
ヘルメットには消費生活用製品安全法のPSCマークがあり、これがなければ日本で販売も陳列もできません。SGやJISもあります。しかしジャケット・パンツ・プロテクター・ブーツ・グローブには、日本にそうした基準が一切ありません。
つまり、あるグローブを「バイク用」として日本で売るために、通さなければならない試験は存在しません。ナックルにプラスチックを付けて「ライディンググローブ」と書けば、それはライディンググローブとして流通します。
これは陰謀の話ではありません。単に、制度がないというだけの話です。ただし結果として、店頭に並んでいる2つのグローブのあいだにどれだけの性能差があるのかを、ラベルから読むことができません。
判断材料になりうるものは、実質2つしかありません。
- CE(EN 13594)——欧州でバイク用グローブとして売るために必要な認証。日本での販売には不要なので、付いている製品はメーカーが任意で取ったことになります。
- 第三者による実測データ——オーストラリア/ニュージーランドのMotoCAPが代表例。市販品を買ってきて切り、実際に測って点数を公開しています。
この2つが何を意味して、何を意味しないのか。それはCEが何を試験しているのかとMotoCAPの実測で扱います。先に、守るべき対象のほうを見ます。
2手のどこが壊れるのか——壊れたグローブから逆算する
手は「関節・骨・筋肉・腱・皮膚」の集合体です。ナックルはそのうちのひとつのパーツにすぎません。では、どこを優先して守るべきなのか。
ここに、推測ではないデータがあります。MotoCAPは、グローブの評価に使うリスク領域を、重傷事故で実際に使われていたグローブの損傷を調べた研究にもとづいて設定しています。摩耗・裂け・破裂・圧潰のどの力で、どこがどれだけ壊れていたかを記録した研究です。
そこから引かれた線が、これです。
この図から読み取れることが、いくつかあります。
ひとつ。最高リスクの「ゾーン1」は、ナックルだけではありません。 指の付け根と、手のひらの付け根——手の甲側と手のひら側の両方が、同じ最高ランクに入っています。
ふたつ。小指と親指は、露出部すべてが「摩耗高リスク」に名指しされています。 指先だけではなく、全体です。
みっつ。摩耗の重みづけも、ゾーンごとに違います。MotoCAPのグローブ摩耗スコアは、ゾーン1に45%、ゾーン2に35%、ゾーン3に20%の重みをかけて合算されます。手のひらと指の付け根、そして小指・親指・指先で、スコアの8割が決まる計算です。
では、それぞれについて何が要るのか。順に見ます。
3ナックルガード——何のための装備で、成立条件は何か
ナックルプロテクターが試験されているのは、衝撃の減衰です。規格の試験は、決められた重さのストライカを落とし、プロテクターを通して手に伝わる力(kN)を測る、というものです。伝わる力が小さいほど良い。
では、その衝撃はどこから来るのか。想定されているのは路面だけではありません。転倒時に手が当たりうる相手には、路面のほかに、バイク自身、相手の車両、ガードレールや標識などの道路構造物があります。ハンドルバーエンドと路面のあいだに手が挟まれる場面も、そのひとつです。ただし「その場面のためだけの装備」ではありません。
そしてもうひとつ。ゾーン1は「衝撃」と「摩耗」の両方が高リスクに分類されています。つまりナックルは、殴られる場所であると同時に、削られる場所でもあります。
プロテクターが仕事をするための条件
ここが本題です。プロテクター単体の性能は、それが正しい位置に留まっていて初めて意味を持ちます。
MotoCAPのプロテクター評価は、減衰性能だけを見ていません。プロテクターがテンプレート(守るべき範囲の型)をどれだけ覆っているかも点数に掛け算されます。覆えていなければ、いくら減衰性能が高くても点数は下がります。位置がずれていてテンプレートの外にあれば、カバー率は0%として扱われます。
ジャケットやパンツでは、そこに「プロテクターをどれだけずらせるか」も加わります。グローブについては、MotoCAP自身が「グローブは必然的に体にぴったり沿うため、プロテクターが動く可能性は低い」として、ずれの測定は行っていません。
裏を返せば、グローブがぴったり合っていることが、その前提だということです。大きすぎるグローブは、この前提を壊します。
店頭でできることは限られていますが、ゼロではありません。プロテクターを指で押して台座ごと動くか、縫い付けなのか貼り付けなのか、拳を握ったときにプロテクターが指の付け根から浮き上がって位置がずれないか。握った状態で、守りたい骨の上にあるかどうか——それは試着室で確認できます。
4手のひら側——多くのグローブが持っていない「もう半分」
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
MotoCAPのグローブ衝撃保護スコアは、次の式で計算されます。
衝撃保護スコア =(ナックルのスコア + 手のひらのスコア)÷ 2
そして、2つの保護領域のどちらかに保護が設けられていない場合、その領域のカバー率は0%として割り当てられます。
意味するところは単純です。ナックルにしかプロテクターがないグローブは、衝撃保護の評価で自動的に半分を失います。 ナックルプロテクターがどれほど優秀でも、です。
そして衝撃保護は、総合スコアの30%を占めます。
MotoCAP自身も、グローブ選びの案内でこう書いています——手のひらの付け根は、路面に接触したときに皮膚と筋肉が剥ぎ取られやすい部位であり、手のひらには単層ではなく複数層の保護素材を、そしてスライダーパッドも摩耗保護を高める、と。
「ナックルガード付き」を保護の指標にしてきたなら、ここで一度、見る場所を変えてみてください。グローブを裏返して、手首寄りの手のひらに何があるか。
5パッドではなく、スライダー
手のひらに「パッド」や「補強」を謳うグローブは、よくあります。ただ、その部位で起きる怪我が何なのかを踏まえた補強かどうかは、また別の話です。
何が折れるのか
投げ出されたとき、人は手を出します。これは意志ではなく反射です。そして手のひらから着地したとき、体重と速度の分の力が手首を通って上に抜けます。
反射を訓練で書き換えられるかどうかについては、レーサーが転倒時に手を引く動作を反復練習しているという話があります。ただしその効果を裏づける公開資料は見つけられませんでした。 いずれにしても、公道を走るライダーの多くは、その訓練を積んでいません。とっさに手が出る前提で装備を選ぶほうが、現実的です。
ここで壊れるのは、主に舟状骨(しゅうじょうこつ)です。手首の親指側にある小さな骨で、手根骨の骨折のうち最も多いのがこの舟状骨骨折であり、典型的な受傷機転が「伸ばした手をついて転倒すること」です。若く活動的な人に多い骨折でもあります。
そして厄介なのは、この骨が見落とされやすく、癒合しにくいことです。単なる捻挫と誤診されることがあり、放置すると偽関節や関節症につながります。
詳しく:舟状骨がなぜ厄介なのか(読み飛ばし可)
舟状骨は血流が末梢から入る構造をしているため、骨折の位置によっては折れた側の血流が断たれ、壊死や癒合不全を起こします。初期のレントゲンに写らないことも珍しくなく、4分の1のケースでは臨床的に骨折が疑われてもX線には出ないとされています。「転んで手をついた、腫れはないが親指の付け根のくぼみが痛む」——この状態を放置すると、数週間後に癒合不全として発覚します。
この記事は医療情報ではありません。手をついて転倒したあと親指側の手首に痛みが残る場合は、腫れがなくても整形外科で確認してください。
なぜ「滑る」必要があるのか
ここが、パッドとスライダーの違いです。
革やゴムのように路面を掴む素材が手のひらにあると、着地した手はそこで止まります。しかし体は前に進み続ける。結果、手首が過伸展し、圧縮と曲げの力が舟状骨に集中します。これがいわゆる「グラブ効果(掴んでしまう作用)」です。
滑りやすい素材のスライダーは、逆の働きをします。手が路面を掴まず、体と同じ速度で滑る。手首は曲がらず、力が集中しません。
だから、手のひらの保護は柔らかいほど良いわけではありません。 目的が「衝撃吸収」ではなく「力の逃がし」である以上、求められる物性が変わります。
「硬いかどうか」ではなく「掴むかどうか」
ここで一点、誤解されやすいので補足します。判断の軸は「硬いか柔らかいか」ではなく、「路面に接する面が掴むか滑るか」です。
柔らかいゴムやフォームのパッドは掴みます。TPUやカーボンの硬いスライダーは滑ります。ここまでは、硬さと滑りやすさが一致しています。
ただし一致しない例があります。 上位モデルのパームスライダーに使われる SuperFabric のような素材です。これは細かい硬質のガードプレートを柔軟な生地の上に規則的に並べて接着した構造で、生地としての柔軟性を保ったまま、路面に接する面だけを硬く低摩擦にしています。 滑走中はこのプレートが路面と当たり、下地の生地が路面に直接触れるのを防ぐ、という考え方です。
つまり「板のように硬くない=スライダーとして劣る」ではありません。 触った印象が柔らかくても、接触面が路面を掴まなければ役割は果たします。逆に、単なる柔らかいゴムパッドは、厚くても掴みます。
店頭で見るなら、厚みや硬さよりも「その面が路面の上を滑りそうか」を見てみてください。そのほうが、目的に合っています。
ひとつ注意を。スライダーの効果そのものを、MotoCAPやCE規格が個別の項目として試験しているわけではありません。 規格が測っているのは、あくまで衝撃の減衰と、その保護材のカバー率です。ただしMotoCAPの摩耗評価では、ゾーン1にメタカルパルプロテクターやパームスライダーのような硬質の保護材がある場合、その面積分は摩耗時間10秒として扱われます。摩耗の面では明確に加点対象です。
グラブ効果と舟状骨の関係は、メーカー各社の設計思想として広く共有されている考え方であり、手をついた転倒で舟状骨が折れやすいこと自体は医学的に確立しています。ただし「スライダー付きグローブが舟状骨骨折を何%減らすか」という数字は、公開された第三者試験としては見当たりません。 ここでは、確かめられるところまでにとどめます。
6小指——名指しで高リスクに分類されている指
手のどこが壊れるのかの図をもう一度見てください。ゾーン2——摩耗が高リスク——の定義には、指先に加えて「小指と親指の露出部すべて」が入っています。小指は、指先だけでなく全体が高リスクに分類されています。
理由は、転倒時の姿勢を考えれば見当がつきます。グリップを握ったまま車体が倒れると、手の小指側が最初に路面側を向きます。ほかの指がまだグリップの上にあるあいだ、小指だけが路面とハンドルバーエンドのあいだに取り残される瞬間が生まれます。
これに対する設計上の答えが、フィンガーブリッジ(小指と薬指を繋ぐ帯)です。薬指と繋いでおくことで、小指が単独で引き離されるのを防ぐという考え方です。
メーカーの説明は一致しています。REV'ITは「小指は転倒時に非常に脆弱なため、小指保護ブリッジを設けている。薬指と繋ぐことで保護を高める」と記載し、Alpinestarsは特許化した第3・第4指のブリッジについて「滑走時の指の分離を防ぐ」としています。実際の特許文書でも、第3指と第4指が開くのを防ぎつつ、指の曲げ動作は妨げない、という構造として説明されています。
ただし、正直に書きます。フィンガーブリッジは、CE規格にもMotoCAPにも試験項目がありません。 これはメーカーが公表している設計意図であり、第三者が効果を測定した数字ではありません。
とはいえ、小指全体が高リスク領域だという分類のほうは、実際の事故グローブの損傷調査に基づいています。 守るべき部位であることは確かで、その部位に対する各社の答えのひとつがブリッジだ——という位置づけで読むのが妥当です。
7カフ——5mmと50mmのあいだ
短いカフのグローブと、長いガントレットのグローブ。この差は、規格の上でも明確に区別されています。
EN 13594:2015には2つの性能レベルがあり、カフ長の要求はこうなっています。
| 項目 | レベル1 | レベル2 |
|---|---|---|
| カフ長(手首線から) | 5mm以上 | 50mm以上 |
| 脱げにくさ(拘束力) | 25N | 50N |
| ナックル衝撃保護 | 任意 | 必須 |
| 切創抵抗の試験範囲 | 手のひら素材のみ | フォーシェット以外の全素材 |
レベル1のカフ長の下限は、5mmです。 1センチもありません。「CE適合」と書かれたグローブが、手首線から5mmしかカフのない製品でありうる、ということです。
一方、レベル2は50mm以上。つまり「ガントレット」は、実質的にレベル2の要件です。
そして、これは手だけの問題ではありません。転倒時に路面へ叩きつけられるのは手だけでなく、手首と前腕です。グローブのカフが短ければ、ジャケットの肘プロテクターとのあいだに、何も保護されていない帯が残ります。 MotoCAPも「グローブは手首から約5cm上まで伸びているべき」と案内しています。
ジャケットの袖の内側に入れるか外側に被せるかは、季節や雨で選び方が変わります。ただしどちらにしても、隙間を残さないことが要点です。
828km/hで、何秒もつか
薄手のグローブを選ぶ理由は、どれも正当です。涼しい、軽い、操作感がいい、格好いい。
この記事はその選択を止めません。ただ、その素材が路面の上で何秒もつのかは、判断材料として知っておく価値があります。
MotoCAPの摩耗試験は、こういうものです。素材の試験片を金属ブロックに巻き、一定速度で動く研磨ベルトの上に落として、穴が空くまでの秒数を測る。素材の裏に張った細い線が切れると、タイマーが自動で止まります。ベルトの速度は28km/h。
市街地の流れよりも遅い速度ですよね。その速度で穴が空くまでの秒数が、評価軸になります。
グローブの摩耗評価の目安は、こうです。
| 摩耗評価(10段階) | グローブに必要な秒数 | 参考:ジャケット・パンツ |
|---|---|---|
| 10 | 5.0秒以上 | 7.2秒超 |
| 8 | 4.0〜4.4秒 | 5.6〜6.3秒 |
| 5 | 2.5〜2.9秒 | 3.5〜4.1秒 |
| 1 | 1.0秒未満 | 1.3秒未満 |
ここで注目してほしいのは、グローブの合格ラインがジャケットより低く設定されていることです。これは手抜きではなく、MotoCAPが明記している意図的な判断です——バイクの操作に必要な柔軟性との折り合いとして、グローブの要求水準は低くしている、と。
言い換えれば、保護と操作性のトレードオフは、試験を設計する側もすでに織り込んでいるということです。この記事の最後に戻ってくる話です。
詳しく:MotoCAPの摩耗試験がCE規格と違う理由(読み飛ばし可)
EN 13594:2015の摩耗試験はP120グリットの研磨ベルトを使いますが、MotoCAPは意図的に60グリット(EN 13595-2:2002の規定)を使っています。理由は、ジャケット・パンツ・グローブの摩耗時間を同じ土俵で比較できるようにするため。消費者にとって分かりやすい、というのがMotoCAPの説明です。
だから、MotoCAPの「何秒」とCE規格の「何秒」は直接比較できません。 EN 13594の2015年改訂でも、レベル1は4秒・レベル2は8秒とされていますが、旧版から試験装置が変わっているため、旧版の数字とも直接は比較できないとされています。秒数は、同じ試験の中でだけ意味を持ちます。
9縫い目——素材の強さは、ここで止まる
ここが、実測データがいちばん厳しい結果を出している部分です。
革は摩耗に強い素材です。しかし革のグローブが縫い目から裂ければ、そこから先は素手と同じです。素材の強さは、それを繋いでいるものが保つ範囲までしか働きません。
MotoCAPはこれを、グローブの各縫い目の引張強度として測ります。対象になるのは指の側面、親指の側面、手のひらの側面、親指を手のひらと側面に繋ぐ縫い目、そして破れれば手が路面に露出することになる、その他すべての縫い目です。
さらに、この縫製スコアには条件が付きます。グローブを引き抜くのに必要な力が200N未満の場合、縫製スコアはその割合に応じて減点されます。 脱げてしまうグローブは、縫い目がどれだけ丈夫でも意味がないからです。
ここでカフの表を思い出してください。EN 13594の拘束力の要求は、レベル1で25N、レベル2で50N。 MotoCAPが減点なしの基準にしている200Nは、レベル2の要求の4倍です。
同じ「脱げにくさ」という項目でも、規格が定める最低ラインと、実測の評価が満点扱いにする水準とのあいだには、これだけの開きがあります。
10CE(EN 13594)は、何を試験しているのか
ここで、よくある誤解をひとつ解いておきます。
「CEはナックルプロテクターしか見ていない」というのは、事実ではありません。
EN 13594:2015が試験するのは、次の項目です。
| 試験項目 | 内容 |
|---|---|
| 無害性 | pH、アゾ染料、PCP、六価クロム、ニッケル、PAH |
| 人間工学 | 規定の動作すべてを問題なく行えるか |
| サイズ・カフ長 | 手首線から5mm(L1)/50mm(L2)以上 |
| 拘束(脱げにくさ) | テストコーンで引き抜き、25N(L1)/50N(L2) |
| 引き裂き強度 | 保護層を構成する各素材 |
| 縫製強度 | 保護層を構成する各縫い目・接合部 |
| 切創抵抗 | L1は手のひら素材のみ/L2はフォーシェット以外の全素材 |
| 耐摩耗性 | ケンブリッジ摩耗試験機、P120グリット |
| ナックル衝撃保護 | L1では任意/L2では必須 |
つまり逆です。 摩耗も縫製も常に試験されていて、任意なのはむしろナックルプロテクターのほう(レベル1の場合)。
では、CE適合であれば安心なのか。ここが本題です。
CEが答えているのは「はい/いいえ」だけ
CE認証は合否の試験です。基準を満たしたかどうかを示すもので、どれだけ上回ったかは示しません。 レベル1のグローブとレベル2のグローブが違うことは分かっても、同じレベル1どうしの優劣は、ラベルからは読めません。
もうひとつ、試験の対象にも違いがあります。CE認証は、メーカーが用意した量産前の素材ロールから作られた試験片を測ります。 一方MotoCAPは、店で買ってきた完成品のグローブから試験片を切り出します。 MotoCAP自身が「この方法は結果の妥当性を変えるものではないが、試験片がライダーに実際に売られている製品と同じものであることを保証する」と説明しています。
それでも、CE表示には意味がある
誤解のないように書きます。CE表示のないグローブが、メーカーの主張どおりの性能を持っていないという意味ではありません。 実際にしっかり作られていて、十分な保護性能を持つ製品もあるはずです。
たとえば、認証を取っていないメーカーの製品が、プロのレースの現場で使われていることもあります。認証を取らない理由が、性能に自信がないからとは限りません。売る予定の市場で要求されていない試験費用を、単に省いたというだけかもしれないからです。
問題は性能の有無ではなく、消費者の側に確かめる手段があるかどうかです。メーカーがどんな試験を、どんな条件で行い、どんな結果が出たのかを自ら公開していない限り、その主張を裏づけるものは何も残りません。
CE表示は「このグローブが優れている」という意味ではありません。「第三者が定めた最低基準を通過したという記録が存在する」という意味です。それだけです。しかし、記録がまったく存在しないことに比べれば、それは大きな違いです。
CE適合は、性能の順位ではなく、検証可能性の有無を示している。
11MotoCAP——362製品を実際に切って測るとどうなるか
MotoCAPは、オーストラリアとニュージーランドの政府機関・保険機関などが出資し、ディーキン大学が試験を担う制度です。ジャケット・パンツ・グローブを買ってきて試験し、5段階の星と、項目ごとの10点満点のスコアを公開しています。
購入方法まで規定されています。毎年、市場に出ている対象製品の10%を無作為抽出し、覆面で購入。1製品につき実店舗とオンラインの別々の店から入手し、同じ購入者は同じ店に6か月以内に戻らない——メーカーにも小売にも知られないための手順です。
実際の分布
2026年7月29日時点で、MotoCAPのデータベースには362製品のグローブが載っています。星の分布はこうです。
| 安全性評価 | 製品数 | 割合 |
|---|---|---|
| 5つ星 | 7 | 約2% |
| 4つ星 | 39 | 約11% |
| 3つ星 | 64 | 約18% |
| 2つ星 | 163 | 約45% |
| 1つ星 | 76 | 約21% |
| 0.5つ星 | 13 | 約4% |
2つ星以下が、全体の約7割。 これがバイク用として売られているグローブの実測分布です。
どこで落としているのか
項目別に見ると、原因は明確です。
| 項目 | 10点満点 | 10点中1点 |
|---|---|---|
| 摩耗 | 112製品 | 30製品 |
| 衝撃保護 | 2製品 | 81製品 |
| 縫製強度 | 8製品 | 170製品 |
362製品のうち170製品——約47%が、縫製強度で10点満点中1点です。
そして、この170製品の中身がさらに示唆的です。
- 36製品は、摩耗試験で10点満点を取っています。 素材は最高評価、縫い目は最低評価という組み合わせです。
- 99製品は、EN 13594のCE認証を持っています。 CE適合であることは、縫製スコアが1点であることと両立します。
- この170製品のうち、4つ星以上は1製品もありません。 最高で3つ星が1製品、2つ星が106製品。
これは評価の重みづけの図の下に書いた条件が効いているためです——3項目のいずれかが3点以下だと、2つ星を超えられない。
価格は、何を教えてくれるか
MotoCAPは価格を「$/$$/$$$」の3帯で表示しています。この帯と星の数は、一致しません。
具体例をひとつ挙げます。製品を批判するためではなく、スペック表と実測がどう食い違いうるかを示すためです。
Ixon Pro Ragnar(革製)の公開データは、こうなっています。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 価格帯 | $$$(最上位帯) |
| 摩耗試験 | 10.0 / 10 |
| 衝撃試験 | 7.0 / 10 |
| 防水試験 | 10.0 / 10 |
| 縫製(破裂)試験 | 1.0 / 10 |
| 総合 | 2つ星 |
MotoCAPは、この製品の説明欄にこう書いています。ナックルと手のひらの両方に衝撃プロテクターを備えていること、通気の設けがないこと、そして——「縫製スコアの低さが、このグローブの保護評価を3つ星から引き下げた」と。
スペック表の上では、ほぼ理想的なグローブです。最上位価格帯、革、摩耗満点、ナックルと手のひら両方にプロテクター、完全防水。それでも総合2つ星。 縫い目ひとつのためです。
繰り返しますが、これはこの製品を避けろという話ではありません。スペック表と価格からは読み取れない情報が実在し、それが総合評価をひっくり返しうる——この記事が言いたいのは、それだけです。
MotoCAPの限界
正直に、この制度の限界も書いておきます。
- 対象はオーストラリア/ニュージーランド市場です。毎年その市場の10%を抽出しているので、日本で売られているグローブの多くは載っていません。 世界的に流通しているモデルなら見つかる可能性がありますが、国内専売モデルはまず載っていません。
- グローブの通気性(快適性)は評価されていません。 ジャケットとパンツには通気性の星が付きますが、グローブは「評価が難しい」として対象外です。暑さは判断材料になりません。
- 掲載されているのは、あくまでそのモデルのその時点のバージョンの結果です。試験後にメーカーが仕様を見直している可能性もありますし、たまたま状態の良くないロットに当たった可能性も否定はできません。
そのうえで、この記事の立場をはっきりさせておきます。ここに挙げたスコアは、「買うべき」「買うべきでない」の基準として出しているのではありません。 判断材料として出しています。
保護性能以外の理由で——手に合う、操作しやすい、涼しい、気に入っている——評価の低いグローブを選ぶことは、十分にありえる判断です。この記事はそれを否定しません。
MotoCAPのデータが役に立つのは、むしろ直感を検算できる点です。「高いほうが安全なはず」「あのブランドだから大丈夫」「革だから丈夫なはず」——こうした思い込みは、実測と突き合わせると崩れることがあります。崩れたうえで、なお選ぶかどうか。それは読む人が決めることです。
手持ちのグローブや検討中のモデルが載っていないかを確認するのは、数分で終わります。 載っていれば、スペック表には出てこない数字が3つ手に入ります。
12日本には、規格がない
最初の問いに戻ります。
ここまでの話は、すべて欧州の規格と、オーストラリアの実測制度の話でした。日本の話ではありません。
理由は単純で、日本にはバイク用ウェア・パンツ・プロテクター・ブーツ・グローブの安全基準が存在しないからです。ヘルメットにはPSC・SG・JISがあり、基準に適合していないものは販売できません(そのマークが実際に何を保証しているのかは、それ自体が別の話です)。グローブには、それに相当するものがありません。
この差は、店頭でそのまま見えます。ヘルメット売り場に並んでいるものは、少なくとも一定の基準を通過しています。グローブ売り場に並んでいるものは、その保証がありません。 隣り合った2つの商品のあいだに、試験の有無という決定的な差があっても、値札からは分かりません。
だからこそ、CE表示とMotoCAPのデータが——不完全であっても——日本のライダーにとっては数少ない手がかりになります。
なお、CEマークは欧州で販売するための認証なので、日本で売るためには不要です。それでも取得しているメーカーは、輸出の都合であれ、性能の裏づけを示す目的であれ、コストをかけて試験を通す判断をしたということになります。それ自体が、ひとつの情報です。
13店頭でできること、そして決めるのはあなたです
ここまでの内容を、売り場で使える形にまとめます。
手に取って確認できること
| 見る場所 | 確認すること |
|---|---|
| 裏返して手のひら側 | 手首寄りの付け根に保護材があるか。掴みそうな柔らかいゴムパッドか、路面を滑りそうな面か |
| ナックル | 拳を握った状態で、指の付け根の骨の上に来ているか。押して台座ごとずれないか |
| 小指 | 薬指とのブリッジがあるか。小指の外側が補強されているか(伸縮素材や薄手の生地だけになっていないか) |
| カフ | 手首線から5cm以上あるか。ジャケットの袖との間に、どれだけ隙間が残るか |
| 縫い目 | 内側を触って、隠れた縫い目の列があるか(2〜3列のうち少なくとも1列が内側にあるか) |
| 留め具 | カフの締め具とは別に、手首を締める固定具があるか。締めた状態で、人に引っ張ってもらって抜けないか |
| ラベル | EN 13594の表示があるか。レベル1かレベル2か |
| 金具・装飾 | 保護層を貫通しうるスタッドやリベットがないか |
縫い目について補足します。外に出た縫い目そのものが悪いわけではありません。 内側の縫い目は当たって痛点になることがあるため、快適性を理由に外側に出す設計は普通にあります。MotoCAPの案内が求めているのはもう少し具体的で、2〜3列の縫製があり、そのうち少なくとも1列が路面から隠れていること。全部が表に出ていれば、その縫い目は滑走中に直接削られます。
留め具についても同じです。要は、手首を締める固定具があるかどうか——ガントレット側の締め紐だけでは、グローブは手に固定されません。MotoCAPは留め具を手首の内側に配置するよう案内していますが、位置そのものより、締めた状態で引っ張って抜けないことが確認すべき点です。
金具については、金属スタッドは路面を滑るときに熱を持ち、皮膚を焼いたり刺したりしうるとMotoCAPが注意しています。
そして、決めるのはあなたです
保護を上げれば、操作感と通気性は落ちます。これは設計の下手さではなく、物理的なトレードオフです。摩耗試験の話で見たとおり、試験制度の側もそれを前提に基準を設計しています。
そして快適性は、安全と対立する項目ではありません。 手が汗で不快なら、集中は削がれます。もっと言えば、暑くて着けたくないグローブは、着けられません。着けないグローブの保護性能は、ゼロです。
だから、どこで折り合いをつけるかは、走り方と、受け入れられるリスクの大きさによって変わります。そこに正解を出すのは、この記事の仕事ではありません。
この記事が渡したかったのは、その判断に必要な材料です。ナックルガードは守るべき箇所のひとつであること。手のひらは評価の半分を占めること。掴む素材と滑る素材では目的が違うこと。小指が名指しで高リスクに分類されていること。カフ長は5mmでもCEレベル1を通ってしまうこと。そして——いちばん多くのグローブが落としているのは、素材ではなく縫い目だということ。
薄いグローブを選んでもいい。この記事はそれを咎めません。ただ、そのとき自分が何を手放しているのかを知ったうえで選ぶのと、知らずに選ぶのとでは、まったく違います。
選ぶのは、あなたです。
グローブが決まったら、次は行き先です。Japan Bike Cafeは、バイクで行く目的地を集めたディレクトリです。 現在地や都道府県から探せて、駐車場の路面(舗装/未舗装)とアクセス路の路面、そして一般的な地図には載らないライダー向けのメモを掲載しています。
よくある質問
CE規格のバイクグローブなら安全ですか?
CE(EN 13594:2015)に適合しているということは、摩耗・縫製・引き裂き・切創・カフ長・脱げにくさなどの項目で、規格が定めた最低基準を通過したという意味です。合否の試験なので、基準をどれだけ上回っているかは分かりません。実際、MotoCAPが実測したグローブのうち縫製強度で10点満点中1点だった170製品の中にも、EN 13594適合品が99製品含まれています。CE適合は「最低ラインを超えた証拠がある」ということであり、「保護性能が高い」という意味ではありません。
ナックルプロテクターが付いていれば十分ですか?
十分とは言えません。MotoCAPのグローブ衝撃保護スコアは、ナックルのスコアと手のひらのスコアの平均で計算されます。手のひら側にプロテクターがない場合、その領域のカバー率は0%として扱われるため、衝撃保護の評価は自動的に半分になります。またEN 13594でもナックルの衝撃保護はレベル1では任意項目で、必須なのはレベル2だけです。
革のグローブなら縫製も丈夫ですか?
素材の強さと縫製の強さは別の評価です。MotoCAPが実測したグローブのうち、縫製強度が10点満点中1点だったのは362製品中170製品。そのうち36製品は摩耗試験で10点満点を取っています。素材は最高評価で、縫い目は最低評価という組み合わせが実在します。革の強さは、縫い目が保つ範囲でしか働きません。
値段が高いグローブほど安全ですか?
相関するとは限りません。MotoCAPの価格帯表示で最上位帯にあるIxon Pro Ragnar(革)は、摩耗10点・衝撃7点・防水10点を取りながら、縫製強度が1点だったため総合2つ星です。MotoCAP自身が「縫製スコアの低さがこのグローブの保護評価を3つ星から引き下げた」と記載しています。価格は、試験結果の代わりにはなりません。
日本で売られているグローブに安全規格はありますか?
ヘルメットにはPSC・SG・JISがありますが、日本にはバイク用グローブやウェア・パンツ・プロテクター・ブーツの安全基準はありません。つまり日本国内では「バイク用グローブ」として売るために通さなければならない試験は存在しません。判断材料になるのは、メーカーが任意で取得したCE(EN 13594)の表示と、MotoCAPのような第三者機関の実測データだけです。