停めたバイクのシートからヘルメットが滑り落ちて、コンクリートに当たった。塗装に小さな傷がついた。このまま被っていいのか、ライダーなら一度は迷うはずです。
メーカーと公的機関の書いていることを並べると、答えは一つにそろっていませんでした。ただ、少なくともアライとSHOEIのヨーロッパ法人の説明では、答えを大きく分ける条件が一つあります。落ちたとき、中に頭が入っていたかどうかです。
1空で落としたのか、被って打ったのか
「落とした」と「転んだ」は、ヘルメットにとって別の出来事です。メーカーの説明も、そこで分かれています。
SHOEIのヨーロッパ法人は、FAQで落としたヘルメットについてこう書いています(私訳)。
低い高さから地面に落ちた場合、塗装や付属部品の損傷のほかは、たいてい何も起きません。ヘルメットの中に頭が入っていなければ、低い高さからの衝撃で衝撃吸収ライナーが大きく潰れることはありません。
アライの取扱説明書(RR5)も、同じ方向です。
ヘルメットは、中身が空の状態で1m以下からの落下であれば、性能に大きくは影響しませんが※、落下時にヘルメットの部品が破損した場合、そのまま使用すると走行中に部品が外れたりするおそれがあります。部品が破損した時には、速やかに新しい部品と交換してください。
※1m以下からの落下でも同じ所を連続して落下させた場合、ヘルメットの性能は低下します。
どちらも条件は「中が空」です。SHOEIの安全マニュアルによれば、ヘルメットは帽体と衝撃吸収ライナーが潰れることで衝撃のエネルギーを吸収します。ここからは私の読みですが、空のヘルメットには、ライナーを潰すだけの重さが乗っていません。被っていれば、そこに頭と体の重さが乗ります。
なので、この記事の§2〜§4は空のまま落とした場合の話です。被った状態で打った場合は、§5にまとめました。こちらは、話がずっと短く済みます。
2空のヘルメットを落としたら——メーカーごとの線引き
空のヘルメットを落とした場合について、メーカーと公的機関が書いていることを並べました。
| 書いているところ | 空のヘルメットを落としたとき |
|---|---|
| アライ(取扱説明書) | 中身が空で1m以下からなら、性能に大きくは影響しない。ただし壊れた部品は交換する。同じ所を続けて落とすと、1m以下でも性能は低下する |
| アライ(公式FAQ) | シートや手に持った程度の高さからなら、地面がコンクリートでも大丈夫。塗装がはがれる程度なら、安全性能に問題はない |
| SHOEI(ヨーロッパ法人のFAQ) | 低い高さからなら、たいてい塗装か付属部品の損傷だけ。帽体の素材に目に見える損傷があれば、すぐに交換 |
| SHOEI(日本のFAQ) | タンクから落とした場合:落下した状況や、内部に異物が入っているかなどで異なる。最寄りの正規販売店に相談を |
| HJC(日本語の取扱説明書) | 1.2mの高さから落とした場合でも、ダメージを与える場合がある。そのダメージは目視で確認できない場合もある |
| SHARP(英国運輸省のFAQ) | ソファからカーペットなら、たぶん大丈夫。バイクのシートから舗装路なら、たぶん大丈夫ではない。硬い面に落ちたら、できるだけ早く交換を |
| OGK KABUTO(輸出向けの英語の取扱説明書) | 損傷の程度にかかわらず、一度でも衝撃を受けたヘルメットは使わない。落とさないように扱う |
並べると、同じ「シートからコンクリートに落とした」が、アライのFAQの線では大丈夫、SHARPの線では交換になります。
SHARPは、ヘルメットの衝撃試験を行って星の数で評価している、英国運輸省の制度です。そのFAQは、判断の目安をこう添えています。「どちらの場合も、それが自分の素の頭だったらと想像してください」(私訳)。
どちらの線が正しいのかを決めるには、落としたヘルメットを実際に試験したデータが要ります。私が調べたかぎり、そうしたデータは公開されていません。どの線も、それぞれの書き手の判断です。
3自分で見られること、見られないこと
線引きがどこであれ、最初にやることは同じです。内装を外して、見ること。
見られること
- 壊れた部品。シールドの固定部、ベンチレーション、あご紐の取り付け部。アライは、落下で部品が破損したら速やかに交換するよう求めています。そのまま使うと、走行中に外れるおそれがあるからです。
- 帽体のひび。SHOEIのヨーロッパ法人は、帽体の素材に目に見える損傷があれば、すぐに交換するよう書いています。
- 衝撃吸収ライナー(発泡スチロール)の割れや窪み。私なら、当たった場所のまわりだけでなく、全体を見ます。
- 帽体とライナーのあいだの隙間。SHOEIの担当者は、日本自動車工業会のサイトのインタビューで、ヘルメットの端部にこれまでなかった隙間が生じている場合や、ライナーにひび割れなどの異常がある場合は、販売店かメーカーに相談して点検を受けるよう勧めています。
何を見ればいいかの参考になるのが、日本の競技団体MFJの基準です。レースの車検で行われるヘルメット検査で、使用を認めない例として次の5つを挙げています。
1)帽体本体の樹脂部分に至る損傷(ひび割れ)がある場合。 2)帽体本体の樹脂部分を削るようなスライド痕がある場合。 3)帽体本体の発泡スチロールの緩衝材に損傷(ひび割れ・窪み)がある場合。 4)顎紐取り付け部、Dリング取り付け部、紐自体の劣化等ヘルメットの固定に支障がある場合。 5)シールド固定部の損傷、シールド自体にひび割れがある場合。
(MFJ国内競技規則 2026 付則4 ロードレース競技規則 10-1-3)
見られないこと
ここは、メーカー側がはっきり認めています。SHOEIのヨーロッパ法人によれば、帽体の細いひび割れや衝撃吸収ライナーの変形は、工場でヘルメットを壊さないかぎり見えるようにできません。日本のSHOEIの担当者も、先のインタビューで、帽体は一度衝撃を受けても外観上は元の形状に戻る場合があり、見た目だけでは損傷の有無や程度を判断できないことがある、と話しています。
つまり、異常が見つかれば答えは出ます。見つからなくても、答えは出ません。「見たけれど何もなかった」は、「安全だった」と同じではありません。
4点検に出すと、何が分かるか
自分で見て分からないなら、メーカーに見てもらう。その選択肢はあります。ただし、点検で分かることにも限りがあります。
- アライは、大きな衝撃を受けたヘルメットについて、事故の状況説明を添えて品質管理課に送れば、再使用できるかどうかの検査を受け付けています。取扱説明書(RR5)には「※ヘルメットの検査は無料。ヘルメット往復送料はお客様のご負担となります。」とあります。落としただけの場合も対象になるかは、問い合わせて確かめてください。
- SHOEIは、日本向けの安全マニュアルで、一度でも大きな衝撃を受けたヘルメットは使用を中止するか、同社に送って使えるかどうか問い合わせるよう書いています。タンクから落とした場合については、FAQで最寄りの正規販売店への相談を案内しています。
- SHOEIのヨーロッパ法人は、落としたヘルメットについて、直接点検したとしても安定性は保証できない、と書いています(私訳)。
- SHOEIの米国の販売元(Helmet House)は、米国の正規販売店で買った保証期間内のヘルメットに、無料の衝撃点検を行っています。その案内には、点検に出されたヘルメットの大半を承認していないこと、X線検査は行わず、評価は表面の損傷の確認に限られること、使い続けるかどうかの最終判断は持ち主に委ねられること、点検ですべての欠陥を見つけられるとは保証できないこと、が書かれています(私訳)。
アライの検査は、再使用できるかどうかを判定してくれます。一方、SHOEI側の説明を読むかぎり、点検は「使える」というお墨付きをもらう手続きではなく、見える異常を、自分より詳しい人が探してくれる手続きです。どちらにしても、異常が見つかれば話は早く済みます。
5被った状態で打ったなら、そこで終わり
立ちゴケや転倒で、ヘルメットを被ったまま頭を打った場合。アライとSHOEIは、被った状態で衝撃を受けたヘルメットは使わないよう書いています。
SG基準(製品安全協会)も、大きな衝撃を受けたヘルメットについて、乗車用ヘルメットの製品に、容易に消えない方法で次の注意を表示するよう求めています。
大きな衝撃を受けたヘルメットは、外観に損傷がなくても使用してはならないこと。
SGマークの付いたヘルメットなら、この注意はどこかに表示されているはずです。
アライの取扱説明書は、理由をこう書いています。「かぶった状態で衝撃を受けたヘルメットは、例え外観に大きなキズが見られなくても衝撃吸収のために内部構造は壊れています。」SHOEIは、強い衝撃を吸収したヘルメットの修理を受け付けておらず、交換の目安の一つに「転倒してヘルメット(頭)を打っている場合」を挙げています。
SHOEIの挙げる目安は「転倒してヘルメット(頭)を打っている場合」で、転倒の大きさは書かれていません。私なら、「軽く転んだだけ」でも、頭を打ったのならこちらで考えます。空のヘルメットを落とした場合とは、分けて考えてください。
6私がしていたこと、いまの私が決めること
正直に書いておきます。私は、最初の3つのヘルメットを、どれもバイクのシートから何度も落としています。下はコンクリートかアスファルトでした。帽体の塗装や表面に小さな欠けや擦り傷がついたこともありますが、どれもよく見ないと分からない程度でした。
衝撃吸収ライナーは、確かめていません。内装を外して見ることもしないまま、3つとも使い続けました。替えたのは、内装がへたってフィットが緩いと感じたときです。当時は週に3〜4日、片道50分ほどの通勤で、それでだいたい2年でした。フィットがもう少し長く保ったものも、短かったものもあります。
リスクがあることは分かっていました。そのうえで、落とすたびに買い替える費用のほうを重く見ていました。§2の表で言えば、私がしていたのはアライのFAQの線で、SHARPの線ではありません。あのヘルメットが、落としたあとも本来の性能を保っていたのかどうかは、分かりません。私も確かめていません。なので、これは推奨ではありません。
いまの私なら、こう決めます。
- 被った状態で打ったら、それで終わり。年数にも見た目にも関係なく替えます。
- 空で落としたら、まず内装を外して見る。部品の破損、帽体のひび、ライナーの割れや窪み、端部の隙間。どれか一つでもあれば、替えるか、メーカーに見てもらいます。
- 何も見つからなければ、使い続けるかは自分で決める。そのとき、そのヘルメットが何年目か、内装がどれくらいへたっているかも材料に入れます。
振り返ると、私のヘルメットは結局、落としたことではなく、内装がへたってフィットが緩んだことで替えていました。スネル財団が5年の目安の理由として挙げているものの一つも、内装のへたりによるフィットの緩みです。年数の数字の出どころは、ヘルメットの寿命の記事にまとめています。
そもそも落とさないことについても、一つだけ。アライの取扱説明書は、タンクやシートの上のような不安定でツルツルした場所にヘルメットを置くと、滑り落ちるおそれがあると書いています。私が落としたのも、シートの上からでした。
内装を外して確かめたら、次は行き先です。Japan Bike Cafeは、駐車場とアクセス路の路面がわかるツーリング先を、現在地や都道府県から検索できるディレクトリです。
よくある質問
バイクのシートから落としたヘルメットは、まだ使えますか?
決まった答えはありません。アライは取扱説明書で、中身が空の状態で1m以下からの落下なら性能に大きくは影響しないとしています。一方、英国運輸省のSHARPは、バイクのシートから舗装路に落ちたヘルメットはおそらく大丈夫ではないとして、硬い面に落ちたらできるだけ早く交換するよう勧めています。まず内装を外し、部品の破損、帽体のひび、衝撃吸収ライナーの割れや窪みを確かめてください。異常があれば、交換かメーカーへの相談です。異常が見つからなくても、安全だという証明にはなりません。
立ちゴケで頭を打ったヘルメットは、使い続けてもいいですか?
使わないのが、アライとSHOEIの立場です。SHOEIは、転倒してヘルメット(頭)を打っている場合を交換の目安に挙げています。SG基準も、「大きな衝撃を受けたヘルメットは、外観に損傷がなくても使用してはならないこと」を製品に表示するよう求めています。空のまま落とした場合とは、分けて考えてください。
落としたヘルメットは、メーカーで点検してもらえますか?
アライは、大きな衝撃を受けたヘルメットについて、事故の状況説明を添えて送れば、再使用できるかどうかの検査を受け付けています。取扱説明書によれば検査は無料で、往復の送料は自己負担です。落としただけの場合も対象になるかは、問い合わせて確かめてください。SHOEIは、タンクから落とした場合について、最寄りの正規販売店への相談を案内しています。ただし、SHOEIのヨーロッパ法人は、直接点検しても安定性は保証できないと書いています。