窓辺の棚に置かれた、内装を外したフルフェイスヘルメットと、取り外したチークパッド

バイク用ヘルメットの買い替えの目安は、日本では3年、海外では5年と言われます。どちらも自転車ではなく、バイク用の話です。同じヘルメットが、日本でだけ2年早く傷むとは考えにくいはずです。

この記事では、2つの数字を出どころまで辿ります。先に言ってしまうと、どちらも、ヘルメットが壊れる日を測った数字ではありませんでした。そして日本の3年は、いつから数えるのかさえ、資料によって違っていました。

目次(タップで開閉)
  1. 1. 「3年」は、救済制度の期限です
  2. 2. その3年は、いつから数えるのか
  3. 3. 「5年」は、スネル財団の「判断」です
  4. 4. 寿命を測ったデータは、あるのか
  5. 5. 年数より先に、出来事で替える
  6. 6. 競技は10年。ただし、毎回見られている
  7. 7. 私なら、こう決めます
  8. 8. まとめ

1「3年」は、救済制度の期限です

日本の3年の出どころは、SGマークです。製品安全協会が基準に適合した製品に付ける任意のマークで、乗車用ヘルメットも対象になっています。

協会が公開している乗車用ヘルメットの認証の資料には、「SGマーク被害者救済制度の有効期限」という表があります。中身は一行です。

購入日より3年間

(製品安全協会「認証の詳細<乗車用ヘルメット>」表9。2026年7月1日改定の版)

なお同じ資料には、型式の認証そのものの有効期限「認証日より3年間」という、別の3年もあります。こちらはメーカーが受ける認証の話で、ヘルメットを使える期間の話ではありません。

救済制度とは何か

SGマークの付いた製品の欠陥が原因で人がけがをしたときに、協会が賠償する制度です。協会のサイトには、次のように書かれています。

  • 賠償の上限は、1事故あたり1億円
  • 日本国内で起きた事故に限る
  • SGマークの有効期限内に起きた事故に限る
  • 物的な損害は対象外
  • 事故の届け出は、遅くとも60日以内に

つまり3年は、協会が賠償という形で製品の後ろに立つ期間です。

協会は「経年劣化」を挙げている。ただし、根拠は出していない

ここは公平に書いておきます。協会はFAQで、有効期間について「製品は、使用せずとも経年劣化を起こすことがあります。」と書いています。品目ごとに経年劣化を考えて期間を決めていること、期間を過ぎた製品は未使用でも使わずに買い替えてほしいことも、同じ回答で説明しています。

ですから、3年が劣化と無関係に決まった数字だ、とは言えません。ただ、乗車用ヘルメットでなぜ3年なのか、その元になった試験や数字は、私が調べたかぎり公開されていません。資料に書かれているのは期間だけで、理由は書かれていません。

2その3年は、いつから数えるのか

協会の資料では、数え始めは購入日です。では、メーカーはどう書いているか。日本の主要3社の記載を並べました。

書いているところ書いてあること数え始め
製品安全協会(認証の資料)SGマーク被害者救済制度の有効期限「購入日より3年間」購入日
SHOEI(公式サイト)「SGマークではその有効期間を「購入後3年」と定めています」/「使用後3年以内を目安として交換することをお勧めします」SGは購入日。自社の目安は「使用後」
アライ(公式FAQ)「SGマーク(製品安全協会の被害者救済制度)の有効期限(ヘルメット着用開始から3年)を目安に、お買い替えをおすすめしています。」着用開始
OGK KABUTO(公式FAQ)「ヘルメットの有効期限は購入後3年間です。使用を開始してから異常が認められなくても3年以内に買い替えをお薦めしております。」両方

メーカーが自社の目安を着用開始から数えること自体は、おかしくありません。使って傷むものなら、かぶり始めた日から数えるほうが理屈に合います。

引っかかるのは、アライの書き方です。アライは公式FAQでも取扱説明書(S-70、GP-6など)でも、SGマークの有効期限そのものを「ヘルメット着用開始から」3年と書いています。協会自身の資料は「購入日より」です。同じ「SGマークの有効期限」について、メーカーと協会が、違う起点を書いています。

OGKのFAQは、一つの回答の中に両方が入っています。有効期限は「購入後」、買い替えの目安は「使用を開始してから」。

差が出るのは、買ってすぐにかぶらなかったとき

買ったその日からかぶるなら、どちらで数えても同じです。差が出るのは、セールで買って置いておいた、予備として買っておいた、という場合です。

メーカーの目安ではまだ余裕があっても、SGの救済制度は購入日から3年で切れます。救済制度を気にするなら、数えるのは購入日からです。レシートや注文履歴は、日付を確かめるために取っておくと困りません。

もう一つの日付:製造

購入日の前にも、時間は流れています。英国運輸省のヘルメット評価制度SHARPは、店の棚に2年置かれていた可能性もあるので、その場合は購入から3年ほどで替えることになるかもしれない、と書いています。製造年月の見方は、安全規格の記事の§17(ラベルの読み方)にまとめています。

数え始めになりうる日付は、製造日、購入日、着用開始日の3つです。どの数字がどれを起点にしているかを並べると、こうなります。

数え始めの日付は、3つあります 時間 製造 購入 着用開始 MFJ(2027年から) 製造後10年で使用不可 SHARP(英国) 店の棚で2年たつことも SG救済制度 購入日より3年間 OGK 有効期限は購入後3年間 SHOEI SGは「購入後3年」 アライ(日本) 着用開始から3年 アライ(米国) 初めての使用から5年 スネル財団 通常の使用で5年 MFJ(推奨) 使用開始後10年 アライは、SGの有効期限も「着用開始から」と書いている
同じ「3年」「5年」「10年」でも、数え始めがそろっていません。

3「5年」は、スネル財団の「判断」です

海外の5年は、アメリカのスネル記念財団の推奨です。財団はFAQで、理由をこう説明しています(私訳)。

良好な状態で保管された未使用のヘルメットが、5年で自動的に期限切れになるわけではありません。5年ごとの交換は、ジョージ・スネリー博士がカリフォルニア・ハイウェイ・パトロールで使われたヘルメットを試験した結果に基づく判断(a judgement call)です。着けたり外したりという単純な動作を含む使用の摩耗が、時間とともに内装パッドと衝撃吸収ライナーを傷めます。内装がへたったヘルメットは、新品のときより少なくとも1〜2サイズ大きくなります。合っていないヘルメットは、事故の衝撃で大きくずれたり、頭から脱げたりしやすくなります。

財団自身が「判断」と書いています。そして理由は、素材が年数で劣化することではなく、使うことによる摩耗です。内装パッドと衝撃吸収ライナーが傷み、実質のサイズが大きくなり、事故のときにずれたり脱げたりする。行き着く先は、フィットです。

その試験は、公開されていない

スネリー博士は1983年に亡くなっています。ですから、5年の根拠になったCHPのヘルメットの試験は、それより前のものです。財団のFAQには、試験の年も、条件も、結果も書かれていません。私が探したかぎりでは、試験そのものは見つかりませんでした。

詳しく:財団の説明は、以前は違っていました(読み飛ばし可)

2015〜2016年ごろに財団のFAQとして引用されている文面には、CHPの試験は出てきません。そこで理由に挙げられていたのは、次のようなことでした。

  • 5年という推奨は、メーカーと財団の合意に基づくこと
  • 製造に使われる接着剤や樹脂が、ライナーの素材に影響しうること
  • 整髪料や汗、化粧品、そして通常の摩耗が劣化につながること
  • 5年もあれば、素材・設計・製法・規格の進歩で、ヘルメットの保護性能ははっきり良くなる、という経験

そして結論は、「慎重な安全の考え方から来た判断」でした。

理由は入れ替わっています。残っているのは、5年という数字と、「判断」という言葉です。

同じアライが、アメリカでは5年

アライのアメリカ法人は、保証の案内ページにこう書いています。「スネル記念財団の推奨に基づき、すべてのアライヘルメットは、初めて使用してから5年以内に交換すべきです」。そして、「多くの大手メーカーと同様に」、スネルの5年という基準に従っている、と(私訳)。

日本ではSGの3年、アメリカではスネルの5年。同じ会社が、市場ごとに、その市場で通っている制度を指しています。

SHOEIのヨーロッパ法人は、別の理由で5年

SHOEIのヨーロッパ法人も、通常の使用・手入れ・保管でおよそ5年での交換を勧めています。ただし理由はフィットではなく、衝撃吸収ライナー(EPS)の経年変化です。年数とともに変形しにくくなり、衝撃を吸収する力が落ちる、と説明しています。

海外の5年も、一つの理由でそろっているわけではありません。スネルは使うことによる摩耗とフィットの緩みを、SHOEIのヨーロッパ法人はEPSの経年変化を挙げています。

4寿命を測ったデータは、あるのか

では、ヘルメットが何年でどれだけ傷むのかを、実際に測った人はいるのか。

英国運輸省のSHARPは、ヘルメットの衝撃試験を行い、星の数で評価している制度です。そのSHARPが、FAQにこう書いています。ヘルメットがどれだけもつかを示す独立した試験を、私たちは知らない(私訳)。そのうえで、設計者と試験者の一致した助言として、5年ごと、またはそれより早い交換を勧めています。

自転車用では、測った人がいる

自転車用ヘルメットには、年数と性能の関係を測った研究があります。2017年に学術誌『Annals of Biomedical Engineering』に載ったDeMarcoらの研究は、使用済みの自転車用ヘルメット770個(0〜26年もの)を、2つの速度(秒速3.0mと6.2m)で落下試験しました。

結果は、年数との関係が「差がない」か、あっても1年あたり0.76g以下のわずかな増加。著者らは、26年前のヘルメットでも、衝撃を和らげる性能は年数で失われていないと結論しています。

ただし、そのままバイク用には当てはめられません

ここは限界を書いておきます。

  • 自転車用です。帽体の造りも、規格が想定する衝撃の大きさも、バイク用とは違います。バイク用で同じ規模の調査は、私が調べたかぎり見つかりませんでした。
  • 調べたのは衝撃吸収だけです。著者ら自身が、年数で変わりうるほかの特徴は評価していない、と書いています。落下試験で測ったのは衝撃の和らげ方で、内装の状態やフィット、あご紐は測っていません。

なので、「バイク用も26年もつ」とは言えません。言えるのは、EPSは時間だけでは大きく傷まないかもしれない、という測定があることです。SHOEIのヨーロッパ法人の説明とは、逆の方向の結果です(自転車用ですが)。

そして、この研究が測っていないフィットは、スネルの理屈の行き着く先です。測られている衝撃吸収は年数で大きく変わらず、フィットは測られていない。今ある証拠は、そういう形をしています。

5年数より先に、出来事で替える

メーカーが年数とは別に挙げている交換のきっかけは、どれも「いつ」ではなく「何が起きたか」です。いちばんまとまっているのは、アライの公式FAQです。

たとえ、使用開始から3年以内であっても、転倒などで衝撃が一度でも加わった場合は使用しないでください。また、内装のへたり、あご紐のほつれ等で適正に装着できない場合や、発泡スチロール(衝撃緩衝ライナ)の熱による膨れ等の変形は衝撃吸収性能の低下を招くため、交換の目安となります。

衝撃、熱、そしてフィット。どれも、手元のヘルメットで確かめられます。

衝撃を受けた

アライはFAQで、被った状態で衝撃を受けたヘルメットは、表面にキズが見られなくても内部構造が破壊されている場合があるとして、品質管理部に送って継続使用できるか検査を依頼するか、新しいヘルメットを買うよう求めています。OGKも、一度でも強い衝撃を受けたヘルメットは「二度と衝撃を吸収することが出来なくなり」と書いています。

年数がいくら残っていても、ここで終わりです。手から落とした、停めたバイクから落ちた、という場合の考え方は、安全規格の記事の§15で扱っています。

熱にさらした

アライの取扱説明書は、50℃以上の熱で素材が変形・変質すると書いています。OGKは、車の中や真夏の直射日光の当たる場所など、50℃以上になる場所に保管しないよう求めています。SHOEIの品質管理の担当者は、ヘルメットの外表面温度が70℃を超え、シェルと発泡ポリスチレン製のライナーの間で三次発泡(熱で再び膨らむ現象)が起きた事例を挙げています(日本自動車工業会のサイトのインタビュー)。

熱による膨れや変形は、目で見えることがあります。内装を外せるヘルメットなら、一度外して、ライナーの表面を見てください。

フィットが緩んだ

スネルが5年の理由に挙げたのは、ここでした。そして、フィットとあご紐がどれだけ効くかは、日本でも試されています。日本自動車工業会が2023年度に日本自動車研究所(JARI)で行った実験では、サイズが合っていてあご紐をしっかり締めていれば、どのヘルメットも脱げませんでした。サイズが合っていても、あご紐を締めていなければ、すべて脱げました。

実際の事故でも、警視庁によれば、過去3年の二輪車乗車中の死者のうち27.4%でヘルメットが脱落しています(2026年9月14日更新のページ)。

かぶって、あご紐を締めて、新品のころより動くと感じたら、それが合図です。年数の目安より先に、あなたの頭が気づきます。フィットの確かめ方は、安全規格の記事の§10にまとめています。

アライは、内装のへたりを交換の目安に挙げたうえで、修理対象モデルに限り修理対応できる場合がある、と添えています。取り外せない部分の内装交換も修理対象モデルに限って受け付けていますが、預かり修理で、「思いのほかお時間とご予算がかかる場合がございます」とも書いています。

中古で買う

SHOEIの担当者は、フリマアプリなどの中古ヘルメットは「過去の使用状況や事故歴、保管状態などを正確に把握することが難しく、安全性を確認できない場合があります」と話しています。ここまでの3つ——衝撃、熱、フィット——を、前の持ち主の分まで確かめる方法はありません。

SGの救済制度は、有効期間内なら中古品や譲り受けた製品も対象です。ただ、期間は購入日から数えるので、中古で手に入れた時点で、残りはもう短いか、終わっていることがあると読むのが自然です。

6競技は10年。ただし、毎回見られている

日本の競技団体、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)は、競技用ヘルメットについてこう書いています。

【推奨】ヘルメットは使用頻度や保存状態で経年劣化に差があるが、使用開始後10年を経過した製品は使用しないこと。

さらに2027年からは、旧規格のヘルメットと、製造後10年を経過したヘルメットが使えなくなります。推奨は「使用開始後」、2027年のルールは「製造後」。ここでも起点が2つあります。

転倒の頻度も速度も公道とは比べものにならない競技で、10年です。ただし、その10年には条件がついています。MFJは、レースの車検で「劣化の激しいもの」は使用を認めないとしています。競技の10年の下には、検査があります。

公道のヘルメットを、定期的に検査してくれる人はいません。その代わりに渡されているのが、3年という数字だと私は読んでいます。

7私なら、こう決めます

ここまでを踏まえた、私の判断の一例です。推奨ではありません。

  1. 出来事が先。衝撃を受けた、熱で変形が見えた、フィットが明らかに緩んだ。どれか一つでもあれば、私なら年数に関係なく替えるか、メーカーに見てもらいます。
  2. 3年は、点検日として使う。購入日から3年で、SGの救済制度は切れます。その日を、内装を外してライナーを見る日、フィットを確かめる日にします。
  3. そのうえで、どこまで使うかは自分で決める。毎日乗る、夏に酷使する、着脱が多い。スネルの理屈に従えば、使う量が多いほど内装は早くへたります。使い方が重いと分かっているなら、目安より早く替えるのは筋が通っています。

どの数字も、あなたのヘルメットが今どうなっているかには答えていません。数字を出している側も、それぞれ「目安」「判断」と書いています。

8まとめ

  • 日本の3年は、SGマーク被害者救済制度の有効期限。製品安全協会の資料では「購入日より3年間」
  • メーカーの多くは、買い替えの目安の3年を着用開始日から数えている。アライはSGの有効期限そのものを「着用開始から」と書いていて、協会の資料と食い違う
  • 海外の5年は、スネル財団の「判断」。理由は使うことによる摩耗と、フィットの緩み。SHOEIのヨーロッパ法人はEPSの経年変化を挙げている
  • 寿命を測った独立した試験は、ほぼない。自転車用では、26年経っても衝撃吸収性能はほとんど落ちていなかった
  • だから、年数より先に出来事を見る。衝撃、熱、フィット
  • 競技は10年。ただし毎回の検査つき

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よくある質問

SGマークの「3年」は、いつから数えますか?

製品安全協会の資料では、SGマーク被害者救済制度の有効期限は「購入日より3年間」です。ただしメーカーの多くは、買い替えの目安としての3年を着用開始日から数えています。アライは公式FAQで、SGマークの有効期限そのものを「ヘルメット着用開始から3年」と書いており、協会の資料と食い違っています。救済制度の期限を気にするなら、購入日から数えてください。

3年を過ぎたヘルメットは、すぐに危険ですか?

SHOEIの品質管理部長は、「3年を過ぎたら直ちに危険になる」ものではないと説明しています。一方で、外観上は異常が見られなくても安全性能が低下する場合がある、とも述べています。3年はヘルメットが壊れる日を測った数字ではありません。衝撃を受けた、熱にさらした、フィットが緩んだ、という出来事のほうを先に見てください。

買ったまま使っていないヘルメットは、何年もちますか?

決まった答えはありません。製品安全協会は、製品は使用しなくても経年劣化を起こすことがあるとして、有効期間を過ぎた製品は未使用でも使わずに買い替えるよう求めています。救済制度の期限は購入日から数えるので、使わずに置いていた期間も含まれます。保管場所が高温にならなかったかも確かめてください。

中古のヘルメットにも、SGマークの救済制度は使えますか?

製品安全協会によれば、SGマークの有効期間内であれば、中古品や譲り受けた製品も対象になります。ただし協会の資料では期間を購入日から数えるので、中古品では残りが短いか、すでに終わっている可能性があります。SHOEIは、中古ヘルメットは過去の使用状況や事故歴、保管状態を正確に把握するのが難しく、安全性を確認できない場合があると注意しています。

海外では、なぜ5年なのですか?

スネル記念財団の推奨です。財団は5年を「判断(a judgement call)」と呼び、理由に、着脱の繰り返しで内装と衝撃吸収ライナーが傷み、新品より1〜2サイズ大きくなってフィットが緩むことを挙げています。素材が5年で期限切れになるという説明ではありません。