ドレンボルトの先に磁石を付けた、マグネットドレンボルトという部品があります。オイルを抜くと、磁石には黒っぽい鉄粉が付いています。それを見ると効いている気がしますが、「意味ない」という声もあります。
この記事では、磁石が集めるものと集めないもの、摩耗について公開されている試験、そして磁石付きのプラグを本気で使っている航空機の整備資料を読みます。先に言ってしまうと、磁石が鉄粉を集めることは確かですが、それで摩耗が減ることを確かめた公開試験は見つかりませんでした。磁石が確かにしてくれるのは、エンジンの中で何が起きているかを見せることです。
目次(タップで開閉)
1マグネットドレンボルトがすること——オイルの底で、鉄を集める
ドレンボルトは、エンジンの底にあるオイルを抜くための栓です。マグネットドレンボルトは、その先端に磁石を付けたものです。オイルを替えるたびにボルトを外すので、磁石に付いたものを自分の目で見られます。
国内のメーカーの説明は、どれも「集める」ところまでです。
マグネット付きは、ネジ先端部のマグネットにオイル中の鉄粉を付着させ、オイルをクリーンにキープ。
(デイトナ「リプレイスドレンボルト」の製品ページ)
SP武川の取扱説明書は「ネオジム磁石による強力な磁気でオイル内の鉄粉をキャッチします。」、キタコの製品ページは「先端にはマグネットを配しエンジンオイル内のスラッジを集塵させています。」と書いています。販売店のページに載っている武川の説明文は、もう一歩進んで、鉄粉が減ることで「エンジンオイル本来の安定した潤滑性能を発揮することが可能となります」としています。
ただ、私が読んだ範囲では、摩耗が減ったという試験の数字を載せているメーカーはありませんでした。「鉄粉を集める」と「エンジンを守る」は、別の主張です。この記事は、この2つを分けて読みます。
2磁石が集められないもの——アルミ、すず、青銅、砂
磁石が引き寄せるものは、限られています。潤滑の専門誌『Machinery Lubrication』の記事(Noria社のBennett Fitch)は、こう書いています(私訳)。
最も強く引き寄せられるのは、鉄と鋼でできた粒です。
磁石で拾えない物質(アルミなど)は、常磁性体と呼ばれます。
シリカ、すず、アルミ、青銅でできた非鉄の粒を抑えることには、磁気による分離はほとんど効きません。
航空機の整備でも、この2つは別々に確かめます。FAAの整備士向けの手引き(パワープラント編、第6章)は、フィルターを点検するときに、磁石で鉄の粒を探したあと、「強い光で、非鉄金属がないか点検する」よう書いています(私訳)。
ヘリコプターメーカーのベル社も、特許(US 9,879,824、2018年)で、磁石を使う従来の検知装置は非鉄の材料を検知するようにできておらず、そのため非鉄のころ軸受の摩耗や故障を見分ける手段として有効ではない、と書いています。
つまり、磁石に何も付いていなくても、エンジンの中で何も削れていない、とは言えません。磁石が教えてくれるのは、鉄の話だけです。
3摩耗が減る、という試験はあるのか
磁石を付けると、エンジンの摩耗が減るのか。英語と日本語で探しましたが、エンジンで比べた管理された公開試験は、見つかりませんでした。
いちばんはっきり書いているのは、磁石を売る側の資料です。親記事でも引いた、磁石入りフィルターの米国特許(US 6,337,012、2002年)は、背景の説明でこう書いています(私訳)。
磁気式のドレンプラグを除けば、潤滑油や燃料から細かい強磁性の粒を費用に見合う形で取り除く従来の装置で、商業的に成功している、あるいは市販されているものは知られていない。
この不成功の主な理由の1つは、磁石を組み込んだフィルターの費用が、それを使う経済的な便益の具体的な証拠によって正当化できなかったことだと考えられる。
新しい磁石フィルターを考えた本人が、そう書いています。そして同じ文が、ドレンプラグだけは市場にある、とも言っています。売られていることと、効くと確かめられていることは、別です。
試験らしいものも、なくはありません。米海軍研究局(ONR)の契約で1970年代に行われた研究は、高勾配磁気分離という強力な磁気フィルターでオイルを処理し、試験機で摩耗を比べました。フィルターなしでは、ありのときの約1.5倍の摩耗でした。ただ、著者自身がこう書いています(私訳)。
こうした試験の結果は良好だったが、通常の摩耗の条件で、より包括的な試験が行われるまでは、暫定的なものと考えるべきである。
報告は、ディーゼルエンジンでの試験を計画中だとしています。その結果は、私が探した範囲では見つかりませんでした。1983年のミシガン工科大学の論文(『Wear』90巻)も、同じ種類の装置が紙のオイルフィルターより一桁効率よく磁性の摩耗粉を取り除いた、と報告しています。どちらも、測ったのは「どれだけ取るか」で、ドレンボルトでも、エンジンの摩耗でもありません。
フィルターの外側に付ける磁石、FilterMagのサイトは、「Reduce Wear(摩耗を減らす)」「Extend Engine Life(エンジンの寿命を延ばす)」とうたっています。その根拠になる試験は、サイトには載っていませんでした。
集める力を測った研究はあります。摩耗が減ったかどうかをエンジンで測った公開試験は、見つかりません。
4磁石の本来の仕事は「見せる」こと——航空機のチップディテクター
磁石付きのプラグを本気で使っている分野があります。航空機です。エンジンやギヤボックスのオイルの通り道に、チップディテクターと呼ばれる磁石付きのプラグを置いています。FAAの手引きは、こう書いています(私訳)。
磁気式のチップディテクターは、オイル中にある鉄の(磁性の)粒を検知し、捕らえるために使われます。
整備の際には、チップディテクターをエンジンから外し、金属が付いていないか点検します。
チップディテクターに金属が見つかったら、その金属の出どころを調べなければなりません。
チップディテクターをつくっているイートン社は、自社の製品を「潤滑系の早期故障検知装置」と呼び、その役目を、回転部品の摩耗や、故障が近いことを示す鉄の粒の到着を「知らせること」だと書いています(私訳、2013年の製品資料)。
英国スウォンジー大学の研究者による論文(米国防技術情報センター所蔵)は、磁気式のドレンプラグが30年以上使われてきたと書き、キーワードに「状態監視」を挙げています。付いた粒の材質を調べて、どこが傷んでいるかを読むための道具、という扱いです。
バイクのメーカーも、同じ方向のことを書いています。ヤマハのYZ450FX(2023年モデル)の取扱説明書は、「オイルを抜いて、汚れ具合を調べ金属片などの異物が混じっていないか点検する。」としています。
航空機の整備で磁石に任されているのは、守ることではなく、壊れる前に知らせることです。
5目に見える鉄粉と、オイル分析に写る粒——大きさがちがう
磁石に付いたものを見るときに、知っておきたいのが粒の大きさです。
オイル分析会社のWearCheckの技術資料は、15ミクロン未満の粒を通常のこすれ合いでできる摩耗粉、15ミクロンを超える粒を異常な摩耗の粒としています(私訳)。一方で、Noria社の記事によれば、拡大鏡なしで人の目に見える粒は、およそ40ミクロンまでです。
抜いたオイルの分析にも、得意な大きさがあります。オイル交換時期の記事の§7で引いたシェブロンの資料は、元素分析では5ミクロンを超える粒は一部しか検出されず、10ミクロンを超える粒はまったく検出されない、と書いています。
並べると、オイル分析に写る粒と、磁石の上で1粒ずつ目に見える粒は、大きさが重なりません。どちらか一方では、全体は見えないということです。
もう1つ、磁石が届く範囲の話があります。磁石付きの集塵装置の米国特許(US 5,383,534、1995年)は、従来の磁石の装置は磁場がオイル溜めのごく一部にしか効かないと書き、ドレンプラグの位置に磁石を置くと、流れのかなりの部分が金属の粒を取られないまま通り過ぎる、としています(自分の装置を売るための、従来品への批判です)。Noria社の記事も、冷えた状態での始動や流れが急に増えたときには、付いた粒が洗い流されやすいとしています。
磁石に付いている量は、エンジンの中にある鉄粉の、一部です。
6純正で付いているバイクもある——「メーカーが付けないから意味がない」は本当か
「意味ない」という意見でよく見かけるのが、この理屈です。2002年のQ&Aサイトの回答にも、こうあります。
マグネット付きドレンボルトが効果を発揮するなら、メーカーが既に採用している筈です。
(OKWAVE、2002年)
実際には、採用しているメーカーがあります。KTMは、エンジンの技術データ(450 SX ATV、505 SX ATV)の締め付けトルクの表に、「Oil drain plug with magnet M12x1.5 20 Nm」(磁石付きのオイルドレンプラグ、M12×1.5、20N·m)を載せています。KTMの純正部品にも「Oil Drain Plug with Magnet」があります。§3の特許も、磁気式のドレンプラグは市場にあると書いていました。
一方で、米国の『Rider Magazine』の技術Q&A(2019年)は、「メーカーがエンジンに磁石付きのドレンプラグを使わないのは、必要ないからです」と書いています(私訳)。付けていないメーカーが多いのは確かでも、すべてではない、ということです。
私のスピードトリプル1050のドレンボルトは、純正のままです。トライアンフの部品表での名前は「Sump Bolt, M14, Slv」で、組み合わせるワッシャーは「Washer, Sealing, 14.4 x 23 x 3」。磁石付きとは書かれていません。ただ、名前だけで磁石の有無を言い切ることはできません。
メーカーが付けるか付けないかは、効くか効かないかの証明にはなりません。付けた理由も、付けない理由も、メーカーは書いていないからです。
7取り付けのリスク——ねじ、ワッシャー、トルク
効果がはっきりしない一方で、リスクのほうは、メーカー自身がはっきり書いています。磁石ではなく、取り付けの側です。
SP武川のマグネット付きドレンボルト(M12×1.5)の取扱説明書には、こうあります。
締め付けトルクは20N・m(2.0kgf・m)です。
エンジン温間時の増し締めはしないで下さい。
シーリングワッシャは取り外し毎に必ず交換して下さい。再使用されますとオイル漏れの原因となります。
規定トルクは、必ずトルクレンチを使用し、確実に作業を行って下さい。
(原文の「シーリンググワッシャ」は誤植と見て直しています)
20N·mは、この製品の数字です。デイトナは、取り付けは純正のサービスマニュアルの規定トルクで、ワッシャーは「オイル交換の都度、新品に交換してください」とし、取扱説明書で「サービスマニュアルに記載されている規定トルク以上の力を掛けないでください。」と念を押しています。オイルパン側や製品のねじに異常があれば、作業を中断するように、とも書いています。
締めすぎの結果は、元に戻りません。Webikeプラスの記事(2022年)は、エンジン側の雌ねじをなめてしまうと、リコイルなどで雌ねじを作り直さなければならない、と書いています。繰り返しの着脱や過大なトルクで雌ねじが傷むと、オイルが滲みやすくなることがある、とも。
ねじの太さと、ピッチと、長さ
同じM14でも、ピッチ(ねじ山の間隔)が1.25mmのものと1.5mmのものがあります。デイトナのマグネット付きの品ぞろえにも、両方あります。整備士のブログ(MHO ENGINEERING、2018年)は、奥まで入れたときに先端がどこにも当たらない長さであること、そして「手で奥まで締め込んで最後にレンチを使って締めないと、斜めにはいってたら困ります。」と書いています。
熱と磁力
磁石のほうにも、気になる点が1つあります。熱です。磁石メーカーのマグファインは、「ネオジム磁石は耐熱温度が80度と低いです」と書いています。等級を変えれば約230度まで上がるものの、その分、吸着力は落ちる、とも。相模化学金属も、ネオジム磁石は熱で磁力が弱まるので、80度以下で使うのが一般的で、添加する元素を増やせば約200度まで使える、としています。
走行中のエンジンオイルは、一般に100〜110℃が適正とされます(WEBヤングマシンの記事)。デイトナは「耐熱性のあるネオジウム」と書いていますが、何度まで耐える等級なのかを書いている製品ページは、私が見た範囲ではありませんでした。ドレンボルトの磁石が走行中にどれだけ弱るのかを測った資料も、見つかりませんでした。
8「意味ない」と言う人、「付けたほうがいい」と言う人
ネットで見かける意見を、両方並べます。どれも個人や編集部の意見で、試験の結果ではありません。
「意味ない」側。『Rider Magazine』は、いまのエンジンはオイルをフィルターに通していて、25ミクロンほどの粒まで取り除く、と書いています(私訳)。車の情報サイトのカーライフインフォメーションは、「磁石に吸着できる異物だけを吸着させますが、磁石に反応しない異物は効果なしです。」と書き、「取り付けはほとんど自己満足の世界」としています。
「付けたほうがいい」側。整備士のブログ(MHO ENGINEERING、2021年)は、ホンダのハンターカブに付けた話で、「走行200kmでここまで鉄粉が付いてくることがショックでした。」と書き、「オイルフィルターがないハンターカブのようなバイクにこそ装着すべきパーツだと言えます。」としています(ハンターカブのろ過の仕組みは、私はホンダの資料で確かめていません)。2002年のQ&Aサイトのベストアンサーは、「結論から言うと、ちょっとだけ鉄粉が付きます。」でした。
ここまでの章と照らし合わせると、こうなります。
- 「磁石に反応しないものは取れない」は、§2のとおり正しいです。
- 「鉄粉が付く」も、正しいです。ただ、§3のとおり、付くことと摩耗が減ることは別です。
- 「フィルターが取るから要らない」は、確かめようがありません。フィルターと磁石のどちらが、どの大きさの鉄粉をどれだけ取るかを、バイクのエンジンで比べた資料は見つかりませんでした。
- 「メーカーが付けないから」は、§6のとおり、付けているメーカーがあります。
どちらの側も、摩耗を測ってはいません。
9私の場合——磁石は、見るために付けている
ここからは、私自身の話です。
私は、車とバイクで、磁石付きのドレンボルトと、フィルターに付ける磁石の両方を使ってきました。
| 車両 | ドレンボルト | フィルター |
|---|---|---|
| ホンダ VTR1000F(以前) | 磁石付き(汎用品) | 外から付ける磁石 |
| トライアンフ スピードトリプル1050(いま) | 純正 | キジマの磁石入りフィルター 105-833 |
| マツダ ロードスター(NC、いま) | 磁石付き(汎用品) | FilterMag(外から付ける磁石) |
| ホンダ フリード(いま) | 純正(磁石なし) | アクアドリームの磁石入りフィルター |
ロードスターのFilterMagは、5年以上付けたままです。磁石入りフィルターと、外から付ける磁石の話は、オイルフィルターの記事の§8に書きました。
ドレンボルトは、2台ともAmazonで買った、ブランドのない汎用品です。私の車種に適合するとは書かれていませんでした。純正のドレンボルトのねじの太さとピッチを調べて、同じサイズの汎用品を選びました。メーカーが車種を指定していないものを使うのは、私の判断です。§7のとおり、確かめるならピッチと長さまでです。
磁石に付いているのは、いつも、細かい濃い灰色のペーストです。磁石にまとわりつくように付いています。私は、きれいな使い捨てのウエスで拭き取り、拭き取ったものに塊や大きな破片が混じっていないかを見ます。これまでに、気になるものが出てきたことはありません。
ペーストは、1粒ずつは見えない細かい粒が集まったものだと思っています。§5の大きさの話からの、私の読みです。ペーストの量で摩耗の速さが分かるわけではなく、ふだんとちがうものが混じっていないかを見ている、というほうが正確です。
私が磁石を付けているのは、エンジンを守ってくれると考えているからではありません。それは、§3のとおり分かりません。安く、オイルを替えるたびにエンジンの中を少しのぞける。航空機の整備資料が磁石に任せている仕事と、同じ使い方だと思っています。ただ、§2のとおり、アルミや青銅が削れていても、磁石には何も出てきません。
この記事に商品のリンクがないのは、私が使ってきたのが銘柄の分からない汎用品で、勧められる製品として挙げられるものがないからです。
10私なら、こう決めます
ここまでを踏まえた、私の決め方です。推奨ではありません。
- 守ってもらうためではなく、見るために付ける。摩耗が減るかどうかは、分かっていません。
- 純正のドレンボルトのねじの太さ、ピッチ、長さを確かめる。取扱説明書かサービスマニュアルで。
- 締めるのは規定トルクで、ワッシャーは新品に。最初は手で回して、斜めに入っていないことを確かめます。
- 付いたものは、拭き取って見る。量は1回で決めず、回を重ねて比べます。
- 塊や大きな破片が出たら、出どころを店に相談する。航空機の整備でも、金属が見つかったら出どころを調べます。
- 何も付いていなくても、安心の材料にしない。磁石は、鉄の話しかしません。
オイルを替えたら、次は行き先です。Japan Bike Cafeは、駐車場とアクセス路の路面がわかるツーリング先を、現在地や都道府県から検索できるディレクトリです。
よくある質問
マグネットドレンボルトに効果はありますか。
鉄と鋼の摩耗粉を集めることは確かです。ただ、それでエンジンの摩耗が減ることを確かめた、管理された公開試験は見つかりませんでした。航空機の整備では、磁石付きのプラグは、付いた金属で異常を早く見つけるための道具として使われています。
マグネットドレンボルトは意味ないのですか。
意味がないとも、あるとも、試験では決まっていません。「意味ない」という意見も「付けたほうがいい」という意見も、摩耗を測ったものではありません。確かなのは、鉄の粉を集めて、オイル交換のたびに見せてくれることです。
磁石はアルミの摩耗粉も集めますか。
集めません。潤滑の専門誌は、アルミは磁石で拾えず、すず、アルミ、青銅、シリカの粒には磁気による分離はほとんど効かないと書いています。磁石に何も付いていなくても、エンジンの中で何も削れていないとは言えません。
純正のドレンボルトに磁石は付いていますか。
機種によります。KTMはエンジンの技術データに磁石付きのドレンプラグを載せています。付けていないメーカーも多く、部品表の名前だけでは分からないこともあります。自分のバイクの部品表か、販売店で確かめてください。
ドレンボルトのワッシャーは毎回替えますか。
替えてください。SP武川は、シーリングワッシャーは取り外しのたびに交換し、再使用はオイル漏れの原因になると書いています。デイトナも、オイル交換のたびに新品にするよう求めています。締めるのは、サービスマニュアルの規定トルクです。
磁石に鉄粉がたくさん付いていたら、エンジンが悪いのですか。
量だけでは分かりません。目で見えるのは大きい粒だけで、磁石が届く範囲も限られています。航空機の整備では、金属が見つかったら出どころを調べます。塊や大きな破片が混じっていたら、販売店に相談してください。